ハルマゲドンが近づいている:終末時計が1秒進み残り89秒、またしても過去最短に

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 「世界終末時計」の針が昨年より1秒進められ、ついに過去最短の残り89秒となった。これは、1945年に時計が設置されて以来、最も危機的な状況を示している。

 原子力科学者会報のメンバーは、昨年の90秒から針が1秒進められることになった要因として、核兵器・戦争・気候変動の他、鳥インフルエンザ・生物兵器の悪用・宇宙開発と通信分野における民間の台頭、生成AIの発展などを挙げている。

 通常、この報告は悪い側面だけでなく、希望を持てる側面を交えて発表されるものだが、今回はそれすら難しい状況であるようだ。

終末時計とは何か?

 『世界終末時計』とは、核兵器や気候変動問題などに関する学術誌『原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic)』の表紙に毎年掲載される時計のことだ。

 1947年に初めて掲載されて以来、世界の存続がどれほど危機に瀕しているかを象徴する時計で、午前0時が人類の滅亡を示す。

 針の位置は、さまざまな危機要因を総合的に評価し、その深刻度によって決定される。

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過去最短の残り89秒となった要因

1. 核戦争のリスクがかつてないほど高まっている

 終末時計の設立当初から、核戦争の危機は常に最大の懸念事項だった。しかし、近年は核軍縮どころか、各国が核兵器の増強を進めている。

 特に、米国、ロシア、中国といった核保有国は兵器の近代化に数兆円規模の予算を投入しており、核兵器の役割を拡大している。

 さらに、これまで核兵器を持たなかった国々の間でも、核開発の可能性が議論されるようになっている。核拡散防止条約(NPT)体制が揺らぎ始めており、これがさらなる不安定要因となっている。

2. 気候変動の危機が加速

気 候変動も終末時計を進める要因の一つだ。再生可能エネルギーの導入は進んでいるものの、温室効果ガスの排出削減は十分ではなく、地球温暖化の進行は止まらない。国際的な協力が求められるが、多くの国では気候変動対策が後回しにされている。

 特に、米国、中国、ロシアといった経済大国は、環境政策よりも国内経済や政治的な優先事項に重きを置いており、十分な対策を取っていない。

 米国の新政権は環境規制を緩和する大統領令を相次いで発表しており、これがさらに気候変動を悪化させると懸念されている。

3. AIの発展と情報操作の拡大

 生成AIの発展は社会に良い一面をもたらす一方で悪影響も与えている。誤情報や陰謀論の拡散が加速しているのだ。

 原子科学者会報の理事会メンバーであるハーブ・リム氏は、原子力科学者会報の報告書[https://thebulletin.org/doomsday-clock/2025-statement/]で「我々は理性や現実が怒りや幻想に取って代わられる世界へと移行しつつある」と警鐘を鳴らした。

 SNSを中心に、誤った情報が急速に広まり、科学的根拠に基づかない主張が政治的対立を煽る結果となっている。これにより、気候変動対策やワクチン接種など、科学的に重要な議論が歪められてしまう。

 また、AI技術を利用したフェイクニュースの精度が向上しており、事実と虚偽の区別がますます難しくなっている。これは、民主主義社会における健全な議論を損なう要因となっている。

このような情報環境の腐敗は、公正な議論を損ない、民主主義の基盤を脅かしている。

科学を軽視し、言論の自由や人権を抑圧しようとする指導者が増えることで、世界が直面する巨大な脅威に立ち向かうための健全な議論が阻害されている(ハーブ・リム氏)

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世界はどこへ向かうのか?

 報告書は、アメリカ・中国・ロシアの三カ国が、文明を「破壊する力」を持つと同時に、「危機を和らげる力」もあると指摘している。

 しかしながら、こうした大国が国家の利益を超えて協力する状況は、現実的とは言えないほどに難しいようだ。

我々の切なる願いは、各国の指導者が世界の危機的状況を認識し、核兵器・気候変動・生物科学の悪用・その他新技術がもたらす脅威を低減するために果敢な行動をとることである

 と、報告書は締めくくられている。

References: 2025 Doomsday Clock Statement - Bulletin of the Atomic Scientists[https://thebulletin.org/doomsday-clock/2025-statement/]

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