液体と固体の両方の性質をあわせ持つ新物質を開発。鎖かたびらがヒント
最先端の3Dプリント技術で開発された液体と固体の特性を持つ新素材 image credit:PAMs

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 カリフォルニア工科大学の研究チームが開発した物体は、水のように柔軟かと思えば、プラスチックのように硬い。液体と固体の両方の性質をあわせ持つ摩訶不思議な物体だ。

まるで猫のようだ。

 ヒントになったのは中世の「鎖かたびら」だ。だが新たに開発された「PAMs」は、高度な3Dプリンティング技術により、従来の鎖かたびらとは異なる複雑な構造を持つ。

 見た目は編み込まれた糸のように見えるが、各コンポーネント(構成要素)が状況に応じて振る舞いを変えることで、液体のようで固体のようという矛盾したような性質を発揮することができるのだ。

固体でもあり液体でもある不思議な物体

 PAMsとは、正式名称を「ポリキャテネーテッド・アーキテクチャード・マテリアルズ(polycatenated architected materials)」といい、その頭文字をとったものだ。

 PAMsを開発したキアラ・ダライオ氏らのチームは、コンピューターモデルを利用して、結晶の格子構造をベースにその設計を行なった。

 だがただの格子構造ではない。一般的な結晶では格子は固定されているが、PAMsでは、リングやケージ状の構造を鎖のように絡み合わせることで、各コンポーネントが動き、相互に作用する挙動が可能になっている。

 今回発表されたのは、こうして設計されたものを先端の3Dプリンターで印刷した試作品だ。

 その素材はアクリル系ポリマー、熱可塑性ポリウレタン、金属など様々で、直径5cmほどのPAMsの形状も立方体から球体まで色々なものが試されている。

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 ダライオ氏らは試作品の性能を試すために、圧縮したり、引き裂いてみたり、捻ってみたりと、さまざまな力を加えてどのような振る舞いを示すのか観察してみた。

 すると狙い通り、加えられる力に応じて、ときには固体、ときには液体のように振る舞うことがわかったのだ。

 たとえば、たとえば、挟み切るような力(せん断力)を加えたとき、PAMsはまるで水のようにまったく抵抗を示さなかった。

これは各コンポーネントが鎖のように滑るためだ。ところが圧縮されると、グッと硬くなり、固体のように安定する。

 ダライオ氏は、このPAMsのユニークな性質について「まさに新たな物質の形態」と、ニュースリリース[https://thisis.caltech.edu/news/reimagining-chain-mail]で述べている。

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用途は様々、無限の可能性

 PAMsのコンポーネントは結晶構造のように連結されながらも、互いに自由に滑って動く。この新材料が固体結晶格子と粒状物質(米やコーヒー豆など)両方の性質を併せ持っているのはそのためだ。

 PAMsの強みはそれだけではない。用途に応じて柔軟にカスタマイズすることができる。

 柔らかい素材でも、硬い素材でもプリントできるし、各コンポーネントの形状や連結法を変えることもできる。いずれの場合でも固体と液体の性質を示すが、細かい挙動はカスタマイズ次第で変化する。

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 ダライオ氏によれば、PAMsは、粒状材料と弾性可塑性材料とのギャップを埋める材料であり、科学や工学が定義する材料の分類・特性をも書き換える「魅惑的なフロンティア」であるとのことだ。

 こうしたPAMsは応用範囲もまた広い。

 たとえば、PAMsはエネルギー吸収特性が非常に優れている。

各コンポーネントが滑ったり、回転したりして再編されるため、エネルギーを極めて効率的に散らしてしまうのだ。

 ヘルメットのような防具や梱包材として利用すれば、従来の発泡素材などより優れた製品を開発できるかもしれない。

 またミクロレベルでは、PAMsが外からの刺激に対して能動的に反応することも確認されている。

 電荷や物理的な力を受けると収縮・膨張するために、変化に速やかに対応することが求められる医療機器やソフトロボットのような分野での利用が期待される。

 なお研究チームは今後、AIの力を利用することで、こうした素材の広大な可能性を探るべきだと考えている。今回のPAMsはその可能性のごく一端を示したものに過ぎないとのことだ。

 この研究は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adr9713]』(2025年1月16日付)に掲載された。

References: Reimagining Chain Mail: 3D Architected Materials That Adapt and Protect - This is Caltech[https://thisis.caltech.edu/news/reimagining-chain-mail] / The Revolutionary Material Blurring Solid and Liquid Lines – “A New Type of Matter”[https://scitechdaily.com/the-revolutionary-material-blurring-solid-and-liquid-lines-a-new-type-of-matter/]

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