見る角度で表情が変わる2400年前の陶器人形がエルサルバドルで発見される
 image credit:J. Przedwojewska-Szymańska/PASI; Antiquity Publications Ltd

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 中米エルサルバドルにあるピラミッド遺跡で、2400年前の陶器製の人形5体が発見された。驚くべきなのは人形の表情だ。

 画像を見る限り、魂が抜けたような、虚無感のある表情をしているが、見る角度によって劇的に変わるのだという。

 ポーランド、ワルシャワ大学の考古学者チームによると、当時そこで暮らしていた人々は、これらの人形を使って出産に関する儀式を行なっていた可能性があるという。

 またこの人形たちは、孤立していたと考えられていた大昔のエルサルバドルが、ほかの地域と交流していたことを示す証拠でもあるそうだ。

見る角度で表情が大きく変わる2400年前の陶器人形

 陶器製の人形が発見されたのは、中米、エルサルバドル西部にあるサン・イシドロ遺跡だ。そこにはピラミッド状の大規模構造があり、頂上で5体が見つかった。

 陶器人形は女性4体と男性1体。女性2体と男性は高さ30cmほどだが、残りの2体は18cmと10cmでやや小さい。

 大型の3体は裸で、髪も装飾品もないが、小型の2体は額に髪の毛があり、耳飾りをしている。また大型のものについては、現代のおもちゃのように首が動く作りであるという。

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 だが最大の特徴は、見る角度によって大きく変わるその表情だ。

 上の画像を見ると人形はまるで魂が抜けているような虚無的な、あるいは何かに怯えているかのように見える。

 ところが目の高さでは怒りの形相になり、上から見るとにっこり笑顔になるのだという。

 日本の能面は、見る角度によって表情が大きく変わるようデザインされている。

それは今回の人形も同じで、表情が変わるデザインは意図的なしかけだと考えられている。

 下は発見された人形の1つだが、上から見ると確かに笑っているように見える。

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意図的なデザインで、公共の儀式に使用された人形

 ポーランド、ワルシャワ大学の考古学者ヤン・シマンスキー氏がニュースリリース[https://phys.org/news/2025-02-pre-columbian-puppets-ritual-central.html#google_vignette]で語ったところによると、変化する表情の目的は儀式を演出するためのものだという。

 これらの人形は意図的にデザインされており、儀式のパフォーマンスを引き立てるためのもので、今でいう「人形劇」のような儀式に使用されたのかもしれない。

 ピラミッドというと墓を連想するが、サン・イシドロの発掘現場で人間の遺体は見つかっていない。

 また人形が置かれていたのは、ピラミッドの頂上だ。こうしたことから、人形は公共の儀式に用いられたのではないかと推測されるのだ。

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出産に関する儀式で使用された可能性

 はたして、その儀式とはどのようなものだったのだろう?

 じつは遺跡の他の場所では、お腹が空洞になった別の人形が発見されている。驚いたことに、その空洞に、今回発見された一番小さな陶器人形がピッタリと収まるのだ。

 ここから想像されるのは、赤ちゃんの出産だ。

 考古学者たちは「これらの人形は、神話や歴史的な出来事を再現するための劇に使われていた可能性がある」と推測し、出産の場面を再現する儀式に使用された可能性も指摘している。

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エルサルバドルと他地域のつながりを示す証拠

 サン・イシドロ遺跡の人形は紀元前400年頃のもので、それらが中央アメリカの前古典期(紀元前2000~後200年)から古典期(紀元後200~900年)に使用されたことがうかがえる。

 これと同様なものが、10年近く前グアテマラで発見されている。

 このことから研究チームは、当時この地域の支配者階級には共通の伝統やつながりがあったのだろうと考えている。

 残念なことに、エルサルバドルでは5、6世紀頃に大規模な噴火があり、それによって過去の遺物の多くが失われてしまった。

 このことが、ヨーロッパ人入植以前の歴史を紐解くことを難しくしていると、シマンスキー氏は話す。

16世紀初頭にヨーロッパ人が到来する前に、古代集落を作った人々の正体や民族言語的な系統については、ほとんど知られていません(シマンスキー氏)

 それゆえに、かつてエルサルバドルは孤立しており、近隣地域とはまったく異なる政治的・社会的な伝統があったと考える学者もいるという。

 だがサン・イシドロの遺跡では、人形のほかに翡翠のペンダントなど、現代のニカラグア・コスタリカ・パナマの遺跡で発掘されるものによく似た遺物が見つかている。

 こうしたことは、かつてエルサルバドルにあたる地域で暮らしていた人々が、中央アメリカのほかの地域とつながっていたことを物語っているそうだ。

 この研究は『Antiquity[https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/of-puppets-and-puppeteers-preclassic-clay-figurines-from-san-isidro-el-salvador/A6E2C8408DEAB88D1EBE4BCFDC1FCBAA]』(2025年3月5日付)に掲載された。

References: Of puppets and puppeteers: Preclassic clay figurines from San Isidro, El Salvador | Antiquity | Cambridge Core[https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/of-puppets-and-puppeteers-preclassic-clay-figurines-from-san-isidro-el-salvador/A6E2C8408DEAB88D1EBE4BCFDC1FCBAA] / Pre-Columbian 'puppets' indicate ritual connections across Central America[https://phys.org/news/2025-02-pre-columbian-puppets-ritual-central.html]

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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