
電波望遠鏡は、肉眼では見えない世界を見ることができる。最新世代の電波望遠鏡が宇宙に浮かぶ、ぼんやりとした幽霊のようないくつかの円形構造をとらえた。
それらは宇宙の電波源の調査を目的とする観測プログラム「EMU(Evolutionary Map of the Universe)」の一環として発見されたものだ。
ウェスタン・オーストラリア大学をはじめとする天文学者らの解説[https://theconversation.com/ghosts-of-the-radio-universe-astronomers-have-discovered-a-slew-of-faint-circular-objects-249141]によると、その多くはこれまで観測されたことのないきわめて微弱な電波源で、それぞれに独自の物理的特性があるという。
目に見えない宇宙を探る最新の電波望遠鏡
従来の望遠鏡は可視光を観測するものが主流だったが、ASKAP(オーストラリア)やMeerKAT(南アフリカ)などの最新の電波望遠鏡は、光ではなく電波を観測することで、これまで見えなかった微弱な天体を捉えることができる。
特にASKAPの観測プログラム「EMU」は、南半球全域の詳細な電波地図を作成し、未知の天体の発見に大きく貢献している。
この新技術によって、宇宙には「低表面輝度」と形容される非常に暗い天体が無数に存在することが分かってきた。
これらの天体の多くは円形をしており、その正体は、進化の最終段階にある星や、超新星爆発の名残ではないかと考えられている。
それでは、電波望遠鏡がとらえたいくつかの円形構造体の正体を見ていこう。
1. ウォルフ・ライエ星
「Kýklos」と「WR16」は、星の進化の最終段階の1つである「ウォルフ・ライエ星」と呼ばれる珍しい天体だ。
燃料が尽きかけた大質量星は、不安定になり、激しく脈動し始める。このとき、外層が吹き飛ばされることで、その周囲に明るい星雲状の構造が形成されることがある。
それがキレイな円形になるのは、その前に噴出したガスによって、星の周囲の環境がすっきり整えらえているからだ。
2. 超新星爆発
「Stingray 1」「Perun」「Ancora」「Unicycle」は、超新星爆発の残骸だ。
大質量の星が燃料を使い果たすと、重力の力に抵抗できなくなり、内側へ崩壊する。これによって急激に圧力が増加して起きる大爆発が、超新星である。
その衝撃によって星の物質は球状に広がり、美しい円形構造を生み出す。
ただし、その残骸はだんだんと変形していく。爆発が星間雲にぶつかって、そこが押しつぶされたような形になるからだ。
宇宙は静かな空間のようで、じつは混沌としている。ゆえに完璧に円形の残骸はきわめてレアな代物だ。
3. 完璧な円
その完璧な円の一例が「Teleios」だ。その形は、名称がギリシャ語の「完璧」にちなむくらい完璧で、可視光で観察された天体も含み、これほどキレイな円は前例がないという。
完璧な円が意味するのは、Teleiosが周囲の環境の影響をほとんど受けなかったということ。このことは、それを作り出した超新星爆発について知るヒントでもある。
4. 不完全な円
一方、完璧と真逆の乱れた超新星の残骸も発見されている。それが「Diprotodon」だ。
これは空に見える最大クラスの天体で、見かけの大きさは月の6倍もある。ちなみにその名は、2万5000年前のオーストラリアに生息していた巨大ウォンバット「ディプトロドン」にちなんだものだ。
ASKAPの高感度観測によって、ごちゃごちゃとした内部構造が明らかになっている。それは、拡大するシェル(殻状構造)の一部が混み合った星間空間に衝突したことでできたものだ。
5. 宇宙の鏡と共存するフクロウサギ
いっかくじゅう座の反射星雲「vdB-80」は、これまでも知られていた。その光は、ガスと塵の雲が近くの星の光を反射したものだ。
だがASKAPの観測では、この星雲が電離水素の雲でできた「HII領域(エイチツーりょういき)」と共存していることが明らかになっている。
HII領域は、星の中心を反射星雲と共有しており、その星が分子雲へと押し入ることで生じている。その様子が、地中を掘り進むフクロウサギ(Macrotis lagotis)に似ていることから。「Lagotis」と名づけられた。
6. 天の川銀河の外
天の川銀河の外側では、「電波環状銀河」が見つかっている。
可視光でこの銀河の星々を眺めると、平凡な円盤にか見えない。ところが電波で見ると、その中心に穴があいており、リング状に見えるのだ。
なぜ穴があいているのか、確かなことは現時点では不明だ。だが仮説として、超新星爆発がいくつも起きることで、中心にあった電波を放つガスを吹き飛ばしたのでは推測されている。
もう1つの「LMC-ORC」は、さらに謎めいており、「奇妙な電波サークル(Odd Radio Circle)」と呼ばれる天体だ。その起源はよくわかっておらず、電波以外では観測できない謎めいた存在だ。
References: ‘Ghosts of the radio universe’: astronomers have discovered a slew of faint circular objects[https://theconversation.com/ghosts-of-the-radio-universe-astronomers-have-discovered-a-slew-of-faint-circular-objects-249141]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。