
体に痛みを抱えているのなら、自然を眺めてみよう。わざわざ遠くまで出かける必要はない。
これは気のせいではない。実際に効果があることが最新の脳科学研究により明らかとなった。
オーストリア、ウィーン大学を中心とした国際的研究チームがfMRIで脳を調べたところ、本当に痛みシグナルが減ることを確認したのだ。
自然を映像で見るだけで体の痛みが軽減される
今回の研究では、身体的な痛みに苦しむ被験者に、「自然の風景」「屋内の風景」「都市の風景」の3種の映像を視聴してもらい、そのときの脳の働きをfMRIで検査した。
その結果、自然の風景を目にした被験者は、脳内の痛みに関係する領域の活動がはっきりと低下したのだ。もちろん、被験者本人も痛みが和らいだことをきちんと感じていた。
だがなぜ自然を直接ではなく映像で見ただけで、痛みが軽くなるのだろうか?
今回の研究を主導したウィーン大学のマックス・シュタイニンガー氏は、「痛みの処理は複雑な現象」と、ニュースリリース[https://www.eurekalert.org/news-releases/1076779]で語っている。
同氏によれば、痛みはいくつかのピースでできたパズルのようなもので、脳内ではいくつか異なる方法で処理されるいるのだという。
ピースの1つは、痛みに対する感情的な反応だ。つまりただ痛いだけでなく、そのせいで辛いと感じていれば、苦痛は大きくなる。
ただの飴や水なのに、医者などに痛みに効くと言われると本当に効いてしまうことがある。シュタイニンガー氏はによれば、こうしたプラセボ効果は、感情的な反応に働きかけた結果なのだという。
一方、自然の映像は物理的なピースに作用する。脳が生の感覚シグナルを処理する方法自体を変化させるのだ。
心で感じる痛みではなく、もっと根本的な痛みを緩和してくれているのかもしれない。
痛みの治療における新たな可能性
じつはこれまでも、自然の中にいると身体的な痛みが和らぐという報告はあったが、その理由は明確ではなかった。だが、今回の研究では、その際に脳で何が起きているのかはっきりと観察されている。
自然の映像を見ることで脳の痛みの処理が変化し、痛みの元となる刺激自体が弱まることが分かったのだ。
これを応用すれば、自然を利用した新しい痛み治療につながるかもしれない。
シュタイニンガー氏らの研究チームは、今後さらに詳しいメカニズムの解明を進めるとともに、医療現場での実用化を目指している。
とりわけ素晴らしいのは、ただ映像で自然を見るだけでもいいところだ。ならば将来的には、圧倒的にリアルな自然でヒーリング効果を得られるVRのテーマパークのような施設が病院に開設される、なんてこともあるかもしれない。
ということで自然の映像をちりばめておいたので、痛みを感じている人は見てみるといいかもしれない。
この研究は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-025-56870-2]』(2025年3月13日付)に掲載された。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41467-025-56870-2] / Nature relieves physical pain: pain-related s | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1076779]
本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。