その毒どうした?猛毒を持つ鳥、ニューギニアの「ズグロモリモズ」の秘密
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 自然界には「触るな危険!」の生物が存在する。咬まれたら危険な生物もいるが、触っただけで危険なのはやっかいだ。

 そんな有毒タイプは植物だけにとどまらず、動物ではカツオノエボシ、ヤドクガエルなんかがそうだが、そのヤドクガエルに匹敵をする猛毒を持つ鳥が存在する。

 ニューギニア島に生息するズグロモリモズは、かわいらしい鳥だが、その羽や皮膚には猛毒を持っており、触るだけで手がしびれ、麻痺してしまう。

 毒を持っていることが分かったのは、1990年代と比較的最近だ。では詳しく見ていこう。

ズグロモリモズとは?

 スズメ目コウライウグイス科の鳥の「ズグロモリモズ(学名:Pitohui dichrous)」は、ニューギニア島(パプアニューギニア・インドネシア)に生息する中型の鳥だ。

 かつてフードピトフイ(hooded pitohui)とも呼ばれたこの鳥の体長は約23cm。重さは65gほどで、オレンジ色の体に黒い頭部、翼、尾を持つ。

  ニューギニアの森で鳥類学者のジャック・ダンバカー氏の研究チームは、「アカカザリフウチョウ(Paradisaea raggiana)」を捕獲するための調査を行っていた。

 ところが、誤ってズグロモリモズを捕まえてしまった。

 そのズグロモリモズは後に放したのだが、その時にくちばしでつつかれたチームのメンバーは思わぬ体験をすることになる。傷口を消毒するために指をなめたところ、すぐに口の中がピリピリとしびれ次第に麻痺していった。しびれは数時間続き、翌朝まで残ったという。

 驚いたダンバカー氏たちは、地元のガイドに尋ねてみた。

すると、彼らは「その鳥は役に立たないし、食べることもできない」と語った。

 これをきっかけに、ダンバカー氏のチームはズグロモリモズの毒性について本格的な研究を開始した。

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ヤドクガエルが持つ猛毒「バトラコトキシン」を持っていた

 調査の結果、ズグロモリモズの羽毛と皮膚には強力な毒が含まれていることが判明した。

 この毒は「バトラコトキシン[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B3%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3]」という神経毒で、口に入るとしびれや麻痺を引き起こす。

 高濃度のバトラコトキシンは、心停止や死に至る可能性もある。これは自然界で最も強力な毒の一つであり、南米の猛毒ガエル「ヤドクガエル」も同様の毒を持っている。

 バトラコトキシンという名前の由来は、ギリシャ語で「カエル」を意味する「バトラコス(batrachos)」に由来し、もともとはカエルの毒として知られていた。

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ズグロモリモズが猛毒を持つ理由は餌

 では、なぜ鳥の皮膚や羽にこれほど強力な毒が含まれているのか? ズグロモリモズ自身がこの毒を体内で作り出しているわけではない。

 1992年に『science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.1439786]』誌に掲載された研究によると、彼らは餌となる甲虫類から毒を得ているのだという。

 その主な供給源と考えられるのが、ニューギニアに生息する「コレシン(Choresine属)[https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC528779/#:~:text=The%20present%20results%20suggest%20that,for%20toxic%20New%20Guinea%20birds.]」という甲虫である。

 この甲虫にはバトラコトキシンが含まれており、それを食べることで鳥の体内に毒が蓄積される。

 これはヤドクガエルと同じメカニズムであり、ヤドクガエルもまた、森の中で捕食する昆虫から毒を得ていることが分かっている。

 実際、飼育下で育てられたこの甲虫を食べさせていないヤドクガエルは毒を持たないことが知られている。それはズグロモリモズも同様で、甲虫を食べさせなければ触ることも可能だ。

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ズグロモリモズの毒の役割は?

 ズグロモリモズが毒を持つ理由については、いくつかの説がある。

 一つは捕食者から身を守るための防御手段という説だ。毒を持つことで、天敵が襲うのをためらう可能性がある。

 しかし、ズグロモリモズの毒性は強いものの、ヤドクガエルほどではない。ヤドクガエルの場合、わずか20μg(マイクログラム)で人間の大人を死に至らしめるが、ズグロモリモズの場合羽1枚分だ。

 そのため「捕食者対策」としては効果が薄いのではないかとする研究者もいる。

 別の仮説として「寄生虫対策」とする考えもある。

 研究によると、ズグロモリモズの羽や皮膚に含まれるバトラコトキシンは、ダニやシラミなどの外部寄生虫を寄せ付けない効果があることが分かっている。

 つまり、毒は天敵への防御だけでなく、自身の健康を維持する役割も果たしている可能性があるというのだ。

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毒を持つ鳥は他にもいるのか?

 ズグロモリモズは最も有名な「毒を持つ鳥」だが、実は他にもいくつかの種が毒を持つことが確認されている。

 例えば、同じくニューギニアに生息する「カワリモリモズ(Pitohui kirhocephalus)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%AA%E3%83%A2%E3%83%AA%E3%83%A2%E3%82%BA]」や「ズアオチメドリ(Ifrita kowaldi)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BA%E3%82%A2%E3%82%AA%E3%83%81%E3%83%A1%E3%83%89%E3%83%AA]」もバトラコトキシンを持つことが判明している。

 これらの鳥も同じく餌となる甲虫を食べることで毒を蓄積していると考えられている。

References: This poisonous bird is the world's most toxic bird - able to exude some of the most powerful poisons in nature | Discover Wildlife[https://www.discoverwildlife.com/animal-facts/birds/poisonous-hooded-pitohui] / In New Guinea, There’s A Bird That Can Poison You With Its Feathers | IFLScience[https://www.iflscience.com/in-new-guinea-theres-a-bird-that-can-poison-you-with-its-feathers-77487]

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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