宇宙で新鮮な魚が食べられる日も近い。月面養殖場に向けてスズキの受精卵が送られる
月面で魚の養殖をイメージしたユニークな画像

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 南フランスの研究施設では、特別な役割を担った魚が育てられてる。魚の受精卵は国際宇宙ステーションに送られ、宇宙魚に育てられる。

 これは「ルナー・ハッチ計画」の一環で、将来的には月に魚の養殖場を作り、食料にするのが目的だ。この役に抜擢されたのは白身魚のスズキである。

 もし成功すれば、月面基地に長期滞在する未来の宇宙飛行士たちは、週に数回ほど、地球を眺めながら美味しい魚料理に舌鼓を打てるようになる。

月面で食用の魚を養殖する計画

 フランス南部パラヴァ・レ・フロの郊外にある研究施設を訪れれば、水槽の中を元気に泳ぎ回るスズキに出会えるだろう。

 一見したところ、何の変哲もない普通の魚だ。だがこのスズキは人類にとってきわめて重要な任務へ向けて、着々と準備を進めている。

 成魚となったスズキが産んだ卵を人工的に受精させ、受精卵として、国際宇宙ステーション(ISS)へと打ち上げられるのだ。

 これは「ルナー・ハッチ計画」という科学プロジェクトの一環で、ISSでは宇宙で卵が正常に孵化するのかどうか確かめられる。

 だが、最終的に目指しているのは、月面に魚の養殖場を作ることだ。

 プロジェクトの中心人物であるフランス国立海洋研究所のシリル・プシビラ博士は、「魚は私たちが一番消化しやすい動物性タンパク質で、オメガ3や宇宙で筋肉量を維持するために重要なビタミンB群を含む優れた栄養源です」と、語っている。

 プシビラ博士によると、宇宙の養殖場が実現すれば、月面基地では週に2回スズキ料理を提供できるようになるという。

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魚にとって宇宙は身近な環境?

 宇宙は魚にとって、まったく未知の世界ではない。世界で初めて魚が宇宙に飛び立ったのは、すでに50年以上も前のこと。記念すべき宇宙魚の第一号は、1973年にNASAのアポロ計画で打ち上げられたカダヤシ目のマミチョグ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%9F%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%B0](Fundulus heteroclitus)という小魚だ。

 その3年後、サリュート宇宙ステーションに滞在するソ連の宇宙飛行士たちは、グッピーで一連の実験を行った。

 より最近では、微重力が筋肉に与える影響を調べるべく2015年にゼブラフィッシュがISSへ打ち上げられ、昨年4月には中国も天宮宇宙ステーションへ数匹のゼブラフィッシュを送り込んだ。

 このような具合に、魚が宇宙で飼育されることはそう珍しくない。が、食べることを想定して宇宙へ送り出されるのは、ルナー・ハッチ計画のスズキが第一号だ。

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月の氷で育てる、閉鎖循環型の魚タンク

 プシビラ博士によると、ルナー・ハッチ計画の最終的な目的は月面に「閉鎖循環型の食物連鎖」を利用した養殖システムを構築することであるという。

 その養殖場は複数の区画で構成されており、水槽の水は月のクレーターに存在する氷を溶かしたものだ。

 ここで魚を飼育すると排水が出るので、これで藻類を育て、この藻類をエサにして貝や動物プランクトンのような水をきれいにしてくれる生物を育てる。

 さらに魚のフンはエビやミミズのような生物のエサとなり、この生き物たちは魚のエサとなる。

 こうして完結する養殖システムは完全なリサイクル型で、プシビラ博士は「ルナー・ハッチ計画で目指すのは、廃棄物をゼロにすることです」と説明する。

 ここで200尾のスズキを飼育すれば、7人の宇宙飛行士が携わる16週間のミッションで、毎週2食のスズキ料理を提供できるようになる。

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宇宙での孵化は可能か? 実験結果は良好

 なおプシビラ博士がここまで来るまでには、すでに10年近い研究の積み重ねがある。

 その始まりは2016年に欧州宇宙機関が「ムーンビレッジ」という将来の月面基地に関連するアイデアを募集したことだ。

 ここへ提案したプシビラ博士の魚の養殖計画は無事採用され、2018年にはフランス国立宇宙研究センターから助成を受けることになった。

 研究の最初のステップは、そもそもスズキの受精卵がロケット打ち上げの振動に耐えられるかどうか確認することだった。

 その後は打ち上げによる重力の負荷や放射線など、宇宙旅が魚の細胞に与える影響が検証された。

 そしてこれまでの実験結果はどれも良好。今後の課題は、実際にスズキの卵を宇宙に打ち上げ、実践してみることだ。

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正式な日程は未定

 だがそれがいつになるのか、具体的な日程はまだ決まっていない。

 フランス国立宇宙研究センターとNASAケネディ宇宙センターが、卵の積載枠を確保するまで待たねばならないからだ。

 「残念ながら、いつになるかは言えませんが、近い将来であることを期待しています」

 なおこのルナー・ハッチ計画の発表を受けて、中国の研究者も同様の宇宙養殖システムの研究を発表したという。

 つまりこの分野の開発競争はすでに始まっているのである。月から地球を眺めながら美味しい魚料理を食べられるようになるのなら、まことに結構なことだ。

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References: Sea bass in space: why fish farms on the moon may be closer than you think[https://www.theguardian.com/environment/2025/apr/28/sea-bass-in-space-lunar-hatch-fish-farms-moon-aquaculture] / Astronauts May Soon Eat Fresh Fish Farmed on the Moon[https://www.zmescience.com/space/space-flight-space/astronauts-may-soon-eat-fresh-fish-farmed-on-the-moon/]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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