天の川銀河の「骨」に亀裂を発見、奇妙な電波信号が検出される
<em>Image credit: X-ray:&nbsp;</em><a href="https://chandra.si.edu/photo/2025/bone/" target="_blank" rel="noreferrer noopener">NASA/CXC</a><em>/Northwestern Univ./F. Yusef-Zadeh et al; Radio: NRF/SARAO/MeerKat; Image Processing: NASA/CXC/SAO/N. Wolk</em>

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 天の川銀河の中心を横切る“宇宙の骨”に異変が起きている。星の材料となるガスや塵が糸のように細長く集まってできたこのフィラメント構造は、銀河の渦巻き腕に沿って伸びる高密度のガスのかたまりで、「銀河の骨」と呼ばれている。

 約230光年のスケールで広がるこの巨大な銀河の骨に、まるで骨折したかのような「亀裂」が見つかった。

 NASAのチャンドラX線観測衛星による最新の観測により、亀裂から奇妙なX線と電波信号が検出されたことで、その原因が明らかになりつつある。

銀河を横切る「骨」の正体

 私たちの住む天の川銀河では、星々は太陽質量の1万倍程度以上の質量を持つ「巨大分子雲[https://astro-dic.jp/giant-molecular-cloud/]」と呼ばれるガスの塊の中で誕生する。

 分子雲とは、水素を主成分とする冷たくて濃いガスや塵が宇宙空間に集まった雲状の構造で、内部では重力によってガスが圧縮され、新しい星が生まれる。いわば「宇宙の保育園」のような場所だ。

 これらの分子雲はさらに「フィラメント」と呼ばれる形に集まることがある。

 フィラメントとは、電球の中の導線のように細く長く伸びた構造で、宇宙空間ではガスや塵がまるでひものように連なっている。

 特に密度の高いフィラメントは、銀河の渦巻腕に沿って規則的に伸びているため「銀河の骨(Galactic Bone)」と呼ばれている。

 これは、まるで銀河の“背骨”のように、星形成の場をつなぐ重要な役割を果たしていると考えられている。

 ここ数年の観測で、こうした“骨”が20例以上も発見されており、それぞれが天の川銀河の構造や進化に関わっていることがわかってきた。

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巨大な“骨”に亀裂を発見、電波信号を確認

 今回調査されたのは、「G359.13」という名で知られる銀河の骨で、ヘビのような形をしていることから「スネーク」とも呼ばれている。

 G359.13は、銀河中心近くにあり、全体が約230光年にわたって広がっている。

 これは、太陽と最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリとの距離(約4.24光年)の約54倍に相当するスケールである。

 この巨大な骨に骨折ともいえる亀裂が確認された。

 NASAのX線観測衛星「チャンドラ」で得られたデータをもとに、アメリカ・ノースウェスタン大学のファルハド・ユセフ=ザデー博士率いる国際研究チームが解析を行ったところ、ちょうど亀裂の位置にX線と電波の強い発信源があることが判明した。

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亀裂の正体は中性子星「パルサー」である可能性

 この発信源の性質から、研究者たちは「パルサー」と呼ばれる天体であると推測した。

 パルサーとは、重い星が超新星爆発を起こした後に残る中性子星で、極めて高密度かつ強力な磁場を持ち、規則正しく電波やX線を放つ「宇宙の灯台」のような存在だ。

 このパルサーは、時速にして160万~320万kmという驚異的なスピードで銀河の骨に突っ込んだと見られている。その衝撃により骨の内部の磁場が歪められ、周囲に異常な電波やX線が発生したのだ。

さらに、パルサーから放たれた電子と陽電子(電子の反物質)が、骨の構造に沿って加速されることで、より強い放射が生じたと考えられている。

 このような高エネルギー粒子による放射は「シンクロトロン放射[https://astro-dic.jp/synchrotron-radiation/]」と呼ばれ、磁場内を高速で動く粒子が出す特殊な光である。

 研究チームは、主な亀裂はこの高速天体の衝突によって形成され、副次的な亀裂もその余波で生じた可能性があると述べている。

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 今回観測されたこの亀裂は、超高速で移動する中性子星が銀河の骨に衝突して生じた、宇宙でもまれな激しい現象である可能性が、それを確かめるには、更なる観察が必要となる。

 地球から2万6000光年も離れた銀河の中心で、今まさに起きているこの“骨折事件”は、私たちに宇宙の動的な姿を垣間見せてくれる。

 見えない何かが、銀河の奥で今日も音もなく起こっている。そんな想像をするだけで、夜空を見上げる目も少し変わってくるかもしれない。

 この研究は『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society[https://academic.oup.com/mnras/article/530/1/254/7613950]に掲載されています。

追記(2025/05/08)太陽と恒星プロキシマ・ケンタウリとの距離との比較に誤りがありましたので訂正して再送します。

References: NASA's Chandra Diagnoses Cause of Fracture in Galactic "Bone"[https://chandra.si.edu/photo/2025/bone/] / G359.13142-0.20005: a steep spectrum radio pulsar candidate with an X-ray counterpart running into the Galactic Centre Snake[https://academic.oup.com/mnras/article/530/1/254/7613950] / NASA’s Chandra Diagnoses Cause of Fracture in Galactic “Bone”[https://www.nasa.gov/missions/chandra/nasas-chandra-diagnoses-cause-of-fracture-in-galactic-bone/]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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