アフリカの岩絵に描かれた謎生物は、幻獣ではなく2億年前のディキノドン類だった可能性
Image credit: Julien Benoit (<a href="https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/" target="_blank" rel="noreferrer noopener">CC-BY 4.0</a><em>)</em>

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 南アフリカのカルー盆地にある岩壁には、牙を持つ不思議な生物の絵が描かれている。これは、約200年前の1821年から1835年の間に、この地に暮らしていた狩猟採集民族のサン人によって描かれたとされる。

 描かれた生物は、現代のどの動物にも当てはまらず、これまで、この絵は神話上の存在、あるいは霊的な幻獣と考えられてきた。

 だが最新の研究によって、この絵はおよそ2億年前に絶滅した「ディキノドン類」をイメージして描いた可能性があることが示された。

 この説が正しければ、サン人は、ディキノドン類が科学的に記述される以前から、その存在を知っていた可能性がある。

神話の幻獣か?岩に描かれた謎の生物

 カルー盆地の岩壁に描かれた生物は、「角のあるヘビの壁画(Horned Serpent panel)」として知られている。

 細長い体に、下向きの牙を持つその姿は、この地域に現在生息しているどの動物にも一致しない。

 絵だけを見ると、セイウチのようにも思えるが、セイウチは北極圏にしか生息しておらず、アフリカとは無縁だ。

 この絵を描いたとされる、南部アフリカの砂漠に住む狩猟採集民族、サン人[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E4%BA%BA]は、霊界へと入り込む宗教的儀式や、「霊的世界」にまつわるさまざまな神話が語り継がれており、この絵もそういった精神世界から生まれた幻獣だと考えられてきた。

 だが、サン人が描く霊的存在の多くは、実在する動物に基づいていることが明らかになっている。まったくの空想上の存在というより、現実的なモデルがあった可能性が高いのだ。

 ではこの絵の元となった生物はいったい何なのだろう?

 南アフリカ・ウィットウォーターズランド大学のジュリアン・ブノワ博士率いる研究チームは、新たな仮説を提唱した。

2億年前に生息していたディキノドン類である可能性

 ブノワ博士は、壁画に描かれた牙を持つ生き物は、ディキノドン類[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%89%E3%83%B3%E9%A1%9E]をもとに描かれた可能性があるという。

 ディキノドン類は、約2億5000万年前から2億年前のペルム紀~三畳紀にかけて生息していた草食性の陸上脊椎動物で、がっしりとした体と、特徴的な下向きの2本の牙が特徴で、双牙類とも呼ばれている。

 現代の哺乳類の祖先に近い獣弓類[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8D%A3%E5%BC%93%E9%A1%9E](じゅうきゅうるい)という脊椎動物グループに属しており、哺乳類はその唯一の現生群だ。

 研究グループは、ディキノドン類の化石が、サン人たちによって発見され、それが彼らの想像力を刺激してこの絵のモデルとなったのではないかと予測したのだ。

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サン人はディキノドン類を先に発見していた?

 この説が正しければ、南アフリカの先住民であるサン人は、西洋の科学者がディキノドン類を科学的に記述するよりも早く、その姿を知っていたことになる。

 また、それが彼らの神話や芸術に影響を与えていた可能性も示されている。

 アメリカの歴史学者、エイドリアン・メイヤー氏[https://theconversation.com/africans-discovered-dinosaur-fossils-long-before-the-term-palaeontology-existed-218833]は、次のように述べている。

ネイティブアメリカンは植民地化以前から化石の存在を知っており、さまざまな解釈をしていました。中にはその化石が、はるか昔に絶滅した生物のものであること知っていたとする説もあります

  南アフリカのサン人についても、ボララ岩陰遺跡(Bohahla rock shelter)に化石を収集しており、そこに恐竜の指骨の化石を隠していたという。

  研究チームは、こうした事例を踏まえれば、サン人がディキノドン類の化石を見つけ、その特異な姿に着想を得て絵に描いたという可能性は十分に考えられるとしている。

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神話に登場する「雨の動物」として描かれた可能性

 ブノワ博士はまた、この牙を持つ生物がサン人の神話に登場する「雨の動物」だった可能性についても言及している。

 サン人の間では、雨乞いの儀式の際に、祈祷師がトランス状態に入り、死者の世界へと旅して“雨の動物”を捕まえ、現世に雨をもたらすという信仰が伝えられている。

 ブノワ博士はこう述べる。

現時点では推測に過ぎませんが、『角のあるヘビの壁画』に描かれた牙を持つ動物は、おそらく雨の動物として描かれたのでしょう。

 絶滅しており、すでに“死んでいる”と考えられるディキノドン類を選んだのは、霊の世界とこの世をつなぐ力がより強いと信じられていたからかもしれません(ブノワ博士)

この研究は『PLOS ONE』[http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0309908]誌に掲載されている。

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