
フランス、パリのコンコルド広場には、古代エジプト時代にルクソール神殿に建てられた「オベリスク」が移設されている。
この3300年前に作られた石柱は、ほぼ200年の間フランスの中心部にそびえたっているのだが、実はそこに秘密のメッセージが隠されていたという。
パリのカトリック大学に所属するエジプト学者、ジャン=ギヨーム・オレット=ペルティエ氏は、改修工事際、普段見ることのできない場所を調べた。
するとそこには、オベリスクを作らせたラムセス2世が神に近い存在であることを誇示するための碑文が書かれていたというのだ。
パリのコンコルド広場に移設されたオベリスク
コンコルド広場のオベリスクは、元々は、エジプト新王国第19王朝のファラオ「ラムセス2世」(在位:紀元前1279年頃~前1213年頃)が命じてルクソール神殿に建造させたものだ。
なおオベリスクとは一つの石から切り出された四角い柱状のモニュメントのことだ。
それが現在パリにあるのは、1805年にエジプト総督に任命されたムハンマド・アリー・パシャが、当時のフランス国王、シャルル10世にルクソール神殿前のオベリスクを贈呈したことによる。
このオベリスクは、1833年にパリに到着し、1836年にルイ・フィリップ王のもとでパリのコンコルド広場に設置された。
地上からは見えない場所にラムセス2世を讃えるメッセージ
過去の研究によれば、このオベリスクに刻まれた象形文字には、ラムセス2世の業績だけでなく、テーベ(現在のルクソール)の主神アメン(太陽神ラー)や、天空の神ホルスについての記述が含まれていたことが明らかになっていた。
今回、パリ・カトリック大学のエジプト学者で暗号学者のジャン=ギヨーム・オレット=ペルティエ氏は、2021年オベリスクの改修工事が行われた際、許可をとって足場に登り、普段は観察できない部分を調べた。
すると23mの石柱の先端部の、地上からは見えにくい箇所に、特定の視点からのみ読める碑文があることに気づいた。
西面に刻まれた碑文は、建設当時ナイル川を行き交う船の上からよく見えるよう設計されており、年に一度のオペト祭で船でやって来る貴族階級の人々に向けた“視覚的プロパガンダ”だったのではないかとペルティエ氏は推測する。
その内容は、ラムセス2世が「神々に選ばれ、神聖な本質を有する人物で、ゆえにエジプトを統治する権利を与えられた」というものだ。ラムセス2世がアメン神に捧げ物を捧げる場面も描かれているという。
古代エジプトの都テーベ(現在のルクソール内)では、毎年ナイル川氾濫の季節になると「オペト祭」が催され、アメン神やファラオが讃えられた。
この祭りに参加する貴族たちは船でやってきたため、その都度このメッセージを目にすることになった。
オレット=ペルティエ氏は、その狙いはファラオの政治的権威を強化することだと考えている。「これは極めて高度な知識人エリートを対象としたプロパガンダです」と同氏。
オベリスクで見つかったメッセージはほかにもある。それはたとえば、二列に並んだ象形文字で、氏によれば、読む方向によって「王の名」にも「永遠の命」という意味にもなるという。
解釈に慎重な姿勢を見せる専門家も
この研究結果は、フランス語の学術誌『Égypte Nilotique et Méditerranéenne』に掲載予定だが、正式な公開前の段階であり、外部の専門家たちは慎重な見解を示している。
ポーランド科学アカデミーのエジプト学者フィリップ・タテルカ教授は、「ナイル川から船で見上げて、オベリスクの上部が本当に読めたのか疑問だ」と述べており、今後の検証が待たれる。
References: 'Propaganda' praising Ramesses II discovered on famous ancient Egyptian obelisk in Paris, Egyptologist claims[https://www.livescience.com/archaeology/ancient-egyptians/propaganda-praising-ramesses-ii-discovered-on-famous-ancient-egyptian-obelisk-in-paris-egyptologist-claims] / Ramses II’s coded messages revealed on iconic Paris monument[https://euroweeklynews.com/2025/04/19/ramses-iis-coded-messages-revealed-on-iconic-paris-monument/]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。