
睡眠はとても大事だ。一般的に7~8時間寝るのが好ましいとされているが、中には毎日3~4時間の睡眠でも健康を保てる「ショートスリーパー」が存在する。
アメリカ・カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、新たな研究で、ショートスリーパーの人々から新たな遺伝子変異を特定した。
短時間睡眠でも平気な人は、努力や痩せ我慢などではなく、遺伝的な体質が関係している可能性があるいうことだ。
短時間睡眠でも健康に過ごせるショートスリーパー
一般の人にとって健康的な睡眠時間は1日7~8時間程度とされている。だがまれに3~6時間の睡眠時間でも、心身の健康を崩すことなく普通に過ごせる「ショートスリーパー」と呼ばれる人がいる。
睡眠は単なる休息ではなく、その間に脳は、昼間にたまった毒素を掃除したり、損傷を修復したりと、せっせと働いている。
そのような大切な機能があるのに、ショートスリーパーの人々はなぜ短時間の睡眠で事足りるのだろう?
睡眠はできるだけ短くと願う多忙な現代人はたくさんいるだろうが、それは決して努力の賜物や、痩せ我慢というわけではない。むしろ遺伝的な体質であるようだ(なお自然界には短時間睡眠がデフォの哺乳類だっている)。
今回の論文著者である、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科学者イン=フイ・フー氏は、「ショートスリーパーは、こうした機能を私たちよりも高いレベルでこなしているのです」と述べている。
ショートスリーパーから新たに発見された遺伝子変異
そもそもフー氏らがショートスリーパーを研究するようになったきっかけは、ほとんど眠らないというある母娘のゲノムを解析したことだ。
その結果、彼女たちの体内時計の調節を担う遺伝子に、めずらしい変異が見つかったのだ。どうもこの変異は、普通の人より短い時間しか眠らなくても平気な2人の体質に関係していることがわかった。
この発見以降、毎晩6時間以下しか眠らないという人たちから、DNAを検査してくれないかという問い合わせが相次ぐようになったのである。
こうしてフー氏らは、これまでに数百人のショートスリーパーからデータを集め、自然の短時間睡眠に関係する、「DEC2」「ADRB1」「NPSR1」「GRM1」の4つの遺伝子から5つの変異を特定した。
そして今回の研究では、5つ目の遺伝子となる「SIK3」の変異「SIK3-N783Y」を発見した。
マウス実験で、新たな遺伝子変異の効果を確認
その効果を確かめるため、研究チームは、「SIK3-N783Y」をマウスに移植したところ、1日平均12時間のマウスの眠りが、31分短くなった。
人間での睡眠短縮効果に比べれば控えめだが、れっきとした変化である。
さらにこの変異によって作られる酵素は、脳のシナプス(神経細胞同士の接続部にあるわずかな隙間のこと)でもっともよく活性化することも確認されている。
フー氏によると「自然のショートスリーパーの人の体は、通常の人よりも短時間で睡眠中の自己修復や解毒といったプロセスを完了できる」とのこと。つまり彼らは、眠っているあいだの「メンテナンス作業」が超高速なのだ。
これはまさに「睡眠の質」が違うということ。短くても質の高い眠りを得られれば良いわけで、長く眠ることが必ずしも“良い眠り”ではない、というわけだ。
この発見は、今後の睡眠障害治療において有望なターゲットとなる可能性があるという。
この研究は『PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2500356122]』(2025年5月5日付)に掲載された。
References: The SIK3-N783Y mutation is associated with the human natural short sleep trait[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2500356122] / Don’t need much sleep? Mutation linked to thriving with little rest[https://www.nature.com/articles/d41586-025-01402-7] / Scientists Discover Genetic Mutation Linked to Needing Less Sleep[https://www.sciencealert.com/scientists-discover-genetic-mutation-linked-to-needing-less-sleep]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。