人間の脳の神経細胞がモデル。驚異的な視覚処理能力を持つ小型デバイスが誕生
Credit: Will Wright, RMIT University

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 いずれロボットや自動運転車などの視覚は、より人間の目に近いものになっていくのかもしれない。

 オーストラリア、RMIT大学の研究チームが開発した「ニューロモーフィック・ビジョン」は、脳の神経細胞をモデルに設計された、まったく新しい人工視覚システムだ。

 “ニューロモーフィック”とは、人間の神経を模倣したという意味。それは私たちの脳と同様のアナログ処理を行うことができ、外部コンピュータなしで動きを感知し、その”記憶”を保持することができる。

 その高効率かつ高速な視覚処理は、人間のすぐそばで稼働するロボットや、迅速なリアルタイム処理が不可欠な自動運転車にピッタリであるそうだ。

光で動きを記憶する、人間の脳に近づいた人工視覚

 「ニューロモーフィック・ビジョン」は、「二硫化モリブデン」に内在する原子レベルの欠陥を利用して光をキャッチし、その情報を電気信号に変換する視覚システムだ。

 まだ概念実証のレベルではある。だが今回RMIT大学の研究チームは、このデバイスで手を振る動作を検出し、その動きの“記憶”をデバイス内の構造に保存することに成功。これまでは静止画像しか扱えなかったので大きな進歩だ。

 研究チームはこの成果について、ロボットや自動運転車などの自律システムが危険かつ予測困難な環境を移動できるようになるための一歩だと、ニュースリリース[https://www.rmit.edu.au/news/all-news/2025/may/human-vision-tech]で述べている。

 RMIT大学のスミート・ワリア氏はこう説明する。

 「この概念実証デバイスは、人間の目が光を捕らえる仕組みと、脳がその視覚情報を処理する仕組みをモデルにしたもので、大量のデータや電力なしでも環境の変化をさっと感知し、記憶を形成することができます」

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自動運転車やロボットに応用

 研究チームによると、ニューロモーフィック・ビジョンは、従来のコンピュータを利用した人工視覚システムに代替するものではないという。

 ニューロモーフィック技術が優れているのは、少ない電力で複雑なタスクを実行できるところだ。そのほかの点では、従来の視覚システムに敵わないところもある。

 したがってエネルギー効率とリアルタイム動作がとりわけ重要になる状況ではニューロモーフィック・ビジョンを利用するなど、従来の視覚システムと連携させるのが有効な使い方となる。

 だがそれによって実現する視覚システムは、状況の変化をほぼ一瞬で検出し、大量のデータ処理をすることなく高速に反応することができる。こうした性質は、特に人間のそばで稼働する機械にピッタリであるという。

 たとえば研究チームのアクラム・アル=ホウラニ氏は、人間と一緒に働くロボットへの応用を挙げている。

 「人間の行動をさっと認識・反応することを可能にするニューロモーフィック技術なら、産業ロボットやパーソナルアシスタントなど、人間と一緒に働くロボットとのより自然なやりとりを実現できるでしょう」

 また自動運転車の安全性を大いに高めてくれるとも期待されている。

 なお現時点で、ニューロモーフィック・ビジョンの基礎となる二硫化モリブデン・デバイスには、検出ピクセルが1つしかない。

 そこで今後の課題は、これを配列化して、もっとたくさんのピクセルを処理できるようにすることであるそうだ。

 この研究は『Advanced Materials Technology[https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/admt.202401677]』(2025年4月23日付)に掲載された。

References: Tiny device promises new tech with a human touch[https://www.scimex.org/newsfeed/tiny-device-promises-new-tech-with-a-human-touch] / Tiny device mimics human vision and memory abilities[https://www.rmit.edu.au/news/all-news/2023/jun/neuromorphic-vision]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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