小さくなったニモ?カクレクマノミが海の熱波に耐えるため、縮小していることが判明
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 映画『ファインディング・ニモ』で知られるカクレクマノミが、気候変動に伴う海洋熱波の影響でを受け、体長を縮めて生き延びようとしていることが、イギリス・ニューカッスル大学の研究で明らかになった。

 研究はパプアニューギニアのキンベ湾で実施され、5か月間にわたり134匹を観察。

その結果100匹が実際に短くなっていたという。

 この現象はサンゴ礁の魚では初めて記録されたもので、環境ストレスだけでなく、魚同士の社会関係とも関連している可能性があるという。

 この研究成果は、科学誌『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt7079]』に掲載された。

熱波で「縮む」魚、カクレクマノミの生存戦略

 ニューカッスル大学の研究チームは、パプアニューギニアのキンベ湾で、カクレクマノミ(Clownfish)の生態調査を行った。

 期間は5か月間で、海水温は4~6日ごとに計測。134匹の個体を追跡し、毎月体長を記録した。

 その結果、134匹中100匹、実に75%が明らかに体長を縮めていた。

 単に「痩せた」のではなく、魚の体が実際に「短くなった」ことが確認された。この現象は、サンゴ礁に暮らす魚では前例がないという。

 研究を主導したのは、同大学自然環境科学科の博士課程研究員メリッサ・ファースティーグ氏は次のように述べている。

これまで知られていなかった反応です。驚くべきことに、魚が明確に縮んでいました。個体ごとに5か月間測定を繰り返し、100匹が縮小していることを確認しました(メリッサ・ファースティーグ氏)

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体を小さくさせることで生存率が大幅アップ

 また、カクレクマノミが体長を縮めることで、生存率は最大78%向上することもわかった。

 その理由はまだ明らかになっていないが、他の動物にも類似の事例がある。

たとえば、海イグアナはストレス時に骨を再吸収して縮むことが知られている。

 今回の研究で見られたカクレクマノミの縮小は、身体の構造的な変化をともなう適応行動であり、単なる栄養不足による体重減少とは異なる。

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つがいで一緒に縮むと、生き延びる確率がさらに上がる

 カクレクマノミは、インド太平洋のサンゴ礁に生息するスズメダイの一種で、イソギンチャクと共生することで知られている。

 1つのイソギンチャクには、繁殖ペア(つがい)となる1匹のメスと1匹のオス、そして複数の未成熟個体が共に暮らしており、群れ内には体の大きさに基づいた厳格な順位制が存在する。

 最も大きな個体が性転換してメスとなり、2番目に大きな個体がオスとしてペアを形成する。

 残る個体は性成熟を抑えた状態で順番待ちをしており、上位の個体が死ぬと順位が繰り上がっていく。このような社会構造は、カクレクマノミの繁殖と群れの安定に大きく関与している。

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 こうした厳格な社会構造の中で、今回の研究では、繁殖ペアの両方が協調して縮むことで、生存率が高くなる傾向があることも確認された。

 これは、縮小が単なる生理的なストレス反応にとどまらず、群れ内の社会的な秩序を保つための行動でもある可能性を示している。

 体のサイズに不一致が生じると、社会的対立が起こることがあるため、ペアで一緒に体を縮めることでバランスを保っていると考えられる。

 この点について、上席著者である熱帯海洋科学のテレサ・リューガー博士は「縮小は熱ストレスだけでなく、社会的対立の影響も受けています」と述べている。

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今後の課題と注目点

 この研究は、サンゴ礁に生息する魚が環境変化に応じて「物理的に縮む」という初めての科学的証拠となった。今後、他の魚種でも同様の現象が起きているかを確認する必要がある。

 リューガー博士はこう付け加えている。

もしこの縮小現象が他の魚種にも共通しているのであれば、魚全体のサイズが近年小さくなっている理由の一端を説明する新たな仮説となるかもしれません(リューガー博士)

References: Individual clown anemonefish shrink to survive heat stress and social conflict[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt7079] / Shrinking Nemo: Clownfish survive heatwaves by shrinking[https://www.eurekalert.org/news-releases/1084161]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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