アジアゾウの脳はアフリカゾウよりも大きいことが明らかに
アジアゾウ image credit:Pixabay

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 現在、象は大きく分けるとアフリカゾウとアジアゾウの2属が存在する。アフリカゾウの方が体が大きいことはよく知られているが、両者の脳の違いについては、これまでほとんど研究されてこなかった。

 そこで、ドイツのの科学者たちが、それぞれの像の脳の解剖学的特徴を詳しく調べた。

 その結果、体が小さいアジアゾウの方が、アフリカゾウよりも脳が大きく、灰白質(神経細胞の集まり)の体積も多いことが判明した。

 この発見は、両種の行動特性や人との関わり方の違いを理解する手がかりとなる可能性があるという。

 この研究は『PNAS Nexus[https://academic.oup.com/pnasnexus/article/4/5/pgaf141/8138140]』誌(2025年5月5日付)に掲載された。

体は小さくても脳は大きいアジアゾウ

この研究は、アジアゾウ(Elephas maximus)とアフリカゾウ(Loxodonta africana)の脳を比較したもので、野生および動物園で死亡した個体の解剖や、MRI画像、文献データを用いて分析が行われた。

 ドイツ、ベルリン・フンボルト大学とライプニッツ動物園・野生動物研究所研究チームは、成体メスのアジアゾウの脳の平均重量が約5,300gであるのに対し、アフリカゾウの同個体では約4,400gだったと報告している。

 これは、アフリカゾウの方が体格的には大きいにもかかわらず、脳は小さいという意外な結果を示したものだ。

 さらに、脳全体の中でも神経細胞が密集する灰白質(かいはくしつ)の体積についても、アジアゾウの方が大きいことがわかった。

 灰白質は情報処理を担う重要な部分であり、この違いは思考力や学習能力、社会的行動に影響を与えている可能性がある。

 なお、オスについても脳重量や構造に差異がある可能性はあるが、アジアゾウのデータが限られており、現時点では明確な結論を出すには至っていない。

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小脳の構成比率と脳の成長

 また、脳全体の中での小脳の比率を見ると、アフリカゾウは脳重量の約22%を占め、アジアゾウの約19%よりも高い。

 小脳は小脳は運動機能の調整に関与する部位であり、この比率の違いが両種の行動や適応戦略にどのような影響を与えているかは今後の課題となる。

 象の脳は出生後に大きく成長する。成体の脳は出生時の約3倍の重さとなり、この生涯成長率はヒトを除く霊長類のどの種よりも高い。

 ヒトの場合、出生時の脳は成体時の約20%の重量である。

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脳の違いが行動に影響を与えている可能性

 研究の筆頭著者であるマラフ・シャー博士は、こうした脳の違いが両種の行動特性に影響している可能性があると指摘している。

 たとえば、アジアゾウは何千年にもわたり部分的に家畜化され、作業動物として暮らしを共にしてきた歴史がある。

 一方で、アフリカゾウでは家畜化がほとんど成功しておらず、人間との関係を築くのが非常に難しいとされている。

 こうした行動の違いの背景に、脳の構造的な差があるのかもしれない。

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形態の違いと進化の背景

 アジアゾウとアフリカゾウの違いは脳や体の大きさだけではない。

 アフリカゾウは体も耳も大きく、メスにも大きな牙が見られるが、アジアゾウのメスの牙は退化しているか、まったく見られないことも多い。

 これらの違いは、両種が約500万~800万年前に遺伝的に分岐したことに起因するとされている。今回の研究成果は、その進化的な道のりが脳の発達にも影響を与えてきた可能性を示唆している。

References: Larger brains and relatively smaller cerebella in Asian elephants compared with African savanna elephants[https://academic.oup.com/pnasnexus/article/4/5/pgaf141/8138140]

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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