過去1000年にわたる天体現象の描画を集めたコレクションが興味深い

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 彗星や流星などを記した記録は古くから存在するが、それらを伝える西洋の昔のアートも興味深い。

 およそ1000年前の中世のタペストリーは、ハレー彗星に目を奪われた人々の畏怖や混乱、未知への不安を描写していた。

 当然ながら現代ほどの予測もできず、スマホもない時代のことだ。ルネサンス期には芸術とともに天文学も発展し、望遠鏡も発明されたが、近代までの天文アートは、天体現象をビジュアルで世に伝える手段の変遷でもある。

 今回は著作権が切れた作品を紹介するオンラインジャーナル「パブリックドメイン レビュー(PDR)」天文学アートアーカイブから、中世から近代までの作品をいくつか見ていこう。

 歴史、科学、芸術がないまぜになった作品群から、空を見上げた当時の人に想いを馳せて見てみよう。

1.人々が見上げた不吉な星

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バイユーのタペストリー[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%83%9A%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC]より不吉な”赤い星”に見入る人々。

征服王ウィリアムの物語を伝える世界遺産「バイユーのタペストリー」は、中世ヨーロッパを象徴する11世紀の刺繍画。1070年代に制作されたといわれており、18世紀にこの赤い星がハレー彗星であることが判明した。

2. 684年に地球に接近した彗星

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ルネサンス期に出版された歴史書「ニュルンベルク年代記」(ドイツ 1493年、木版画)から彗星の描写。この彗星は当時からおよそ800年前の684年に観測されたものと伝えられている。

3. 夜空で踊る星

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1552年頃ドイツで制作された、不思議な現象などを収めた装飾写本「Augsburger Wunderzeichenbuch(直訳:奇跡の書)」の挿絵。版画家のハンス・ブルクマイアーにより、1007年に観測された夜空でゆらめき踊るような彗星が描かれている

西暦1007年、不思議な彗星が現れ、あらゆる方向に炎を放った。それはドイツや近隣諸国でも目撃された

4. 長い尾を引く恐怖の彗星

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同じく「Augsburger Wunderzeichenbuch」より。

1300年頃に目撃された彗星。

西暦1300年の聖アンドリューの日(11月30日)に、恐ろしい彗星が空に現れ、地震が地面を揺さぶって多くの建物が崩壊した。この年は教皇ボニファティウス8世が初の聖年を制定した年だった

5. 天を切り裂く剣を想起

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フランスの外科医でありルネサンスの先駆者、アンブロワーズ・パレが1579年に出版した「The Figure of a Fearful Comet」に収められた”恐るべき彗星”の挿絵。人の顔や剣というルネサンス期らしい描写が印象的だ。

6. 衝撃的な彗星の軌跡

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1577年聖マーティンの日(11月11日)の翌日に現れたという彗星。ドイツの画家ジェオルギウム・ヤコブム・フォン・ダッツィッツキが描いた本作は、劇的な天体現象が当時の社会に与えた衝撃を如実に伝えている。

7.芸術的で学術的な神秘の彗星

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1580年、天文学者のトマス・エラストス(別名アンドラーシュ・ドゥディス)、医師のマーセロ・スクアルチャルーピ、神学者シモン・グリネアスの共著による「天文学と彗星」の解説書の挿絵。繊細なアートのようで学術的なタッチもうかがえる。

8.天体ショーの主役

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「Theatrum Cometicum(彗星の劇場)」より。1668年にスタニスラウス・ルビエニエツキによって発行された版画集では、天体現象がショーととらえられ、彗星たちの姿がドラマチックに表現されている。

9. 空に現れた幻想的な”花”

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1704年、ヨーロッパ・カタルーニャ上空で目撃された”彗星”。当時天体現象に注目していたJoseph Boll氏により、幻想的な花のように生き生きと記録された。

この図は科学雑誌に掲載されたもので、このような説明も添えられていた。

澄み渡った空に猛烈な轟音を伴い現れた「天からの大いなる兆し」 。スペイン王国全体、特にカタルーニャ公国を見舞った数々の不幸や大災厄の前触れだろう。

10. 名だたる彗星が一堂に

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1860年に制作された版画。ハレー彗星(1835年)、ドナティス彗星(1858年)をはじめ、1680年、1741年、そして1811年の名だたる彗星をまとめて描いたもの。長き歴史の重みを感じさせるこの作品は、時代を超えた宇宙の連続性を鮮やかに示している。

11. 滑らかな彗星

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J. ランボッソンが手掛けた1875年発行の書籍「Astronomy」の挿絵。レトロフューチャーを想起させる滑らかなタッチと独自の視点が、当時の時代背景と宇宙へのロマンを巧みに伝えている。

12. 大自然に降り注いだ流星群

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1888年にドイツ語で出版された天文図鑑の挿絵。1833年11月12日から13日にかけ北アメリカ上空に降り注いだ、しし座流星群を表すもの。過去最大級とされる流星群は、寝ていた人も起きるぐらいのまぶしさで、大自然で繰り広げられた光のパフォーマンスのようだったという。

13. 光と影が奏でる天体写真

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1908年、アメリカのヨークス天文台で撮影されたこの写真は、現代の天体写真の先駆け。

絵ではなく近代技術で記録された星の姿は時代の流れを感じさせる。

天体現象の意味づけ:宗教から科学へ

 中世ヨーロッパにおいて彗星は不吉な予兆として恐れられていた。これはアジア圏においても同様で、中国の古代文献にも彗星が「妖星(ようせい)」として記録されている。

 近代に入ると、天文学の発展とともに、彗星や流星は観測と分類の対象となったが、もっと以前はそうした区別もあいまいで、彗星や大きな流星、流星群などもまとめて空の異変であり、一大事の前兆として扱われていたもよう。

 その後は望遠鏡が発明され、写真技術も発達。彗星の撮影や軌道計算も可能になって、ある程度予測もできるようになったけど、写真も撮れなかった昔だと、ドラマチックな星の絵だけ見た人たちの想像の翼もめいっぱい広がっただろうな、なんて思ってしまうよ。

References: Boingboing[https://boingboing.net/2025/05/01/medieval-artists-were-space-nerds-too-500-years-of-mind-blowing-space-drawings.html] / Publicdomainreview[https://publicdomainreview.org/collection/flowers-of-the-sky/]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

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