触るとバリバリ音がする。プラスチックゴミをお腹いっぱいに詰め込んだ鳥たち

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 オーストラリアのニューサウスウェールズ州に属するロード・ハウ島は、オーストラリア大陸の東方約600kmに浮かぶ緑豊かな小さな孤島でユネスコの世界自然遺産にも登録されている。

 だがオーストラリアの研究者たちは、この島に生息するミズナギドリの間に、不穏な事態が発生していることに気がついた。

 鳥たちの胃から、大量のプラスチック製品のゴミが見つかるようになり、生きた個体でもお腹を触るとバリバリとプラスチックの音がするのだ。

お腹にプラスチックを詰め込んだ鳥たち

 アドリフト・ラボはプラスチックや化学物質、さらには野生生物など、海を漂流するもの全てを研究する研究組織である。

 このラボに属する研究者のチームが最近この島を訪れた際、胃の中に778個ものプラスチック片が「レンガのように」詰まっていた鳥を発見した。

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 これはこの鳥一羽だけのことではない。現在ロード・ハウ島では、お腹にプラスチックを貯め込んだミズナギドリの仲間が、続々と発見されているのだそうだ。

 プラスチックが胃に詰まった鳥たちのお腹を押すとカサカサ、バリバリという音が聞こえる。

 以下の動画の0:27あたりでその音を聞くことができるが、鳥のお腹からプラスチックを取り出している映像も含まれているので苦手な人は注意して欲しい。

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 20年近くにわたって、この島のミズナギドリの調査をしているジェン・レイバーズ博士は、この事態を受けて次のように話している。

鳥の体内にあるプラスチックの量は、もはや尋常ではありません。今では鳥の体の中に入っているプラスチックがあまりにも多くて、生きているうちから、外から触ってわかるほどです。

お腹をそっと押すと、中でプラスチックの破片同士がこすれ合って、バリバリという音がするんです。それを体験すると、人は心の奥底から衝撃を受けるのです

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状況を目の当たりにした議員も危機感を抱く

 博士は長年の友人である緑の党の上院議員、ピーター・ウィッシュ・ウィルソンにこの問題を自分の目で見てもらうよう依頼した。

 議員は彼女のチームと一緒に、生きた鳥のお腹からプラスチックを除去し、洗い流す作業を手伝った。

 その時に見たショッキングな光景は、議員の心を震撼させた。

鳥のお腹からは、容器がいっぱいになるほどのゴミが出てきたのだ。

 例えば注射器のキャップや魚の形をした醤油入れ、歯ブラシの頭、瓶の蓋。すべて人間が捨てたものだ。ウィルソン議員も言葉をなくすほどの衝撃だった。

本当にひどい光景です。私の人生の中でも、最も心を揺さぶられる体験のひとつでした。

最初は深い衝撃と悲しみに襲われました。そして次に、怒りや苛立ち、恥ずかしさといった感情がこみあげてきました。

あの光景をすべての政治家、世の中を動かす立場の人たちに見てほしい。私が感じたあの衝撃を、彼らにも味わってほしいのです

 鳥のお腹から発見されたプラスチックの量は、平均すると鳥の全体重の20%にも達しているという。

 その多くは、おそらく海面を漂ううちに、鳥が餌と間違えて食べてしまったのだろう。レイバーズ博士は、ミズナギドリたちのお腹から聞こえる音は、より大きな地球からのメッセージの一部だと指摘している。

この鳥たちは、私たちにとても重要なことを伝えようとしています。それは、彼らの数が減っていること。そして、体に取り込んでしまうプラスチックの量が増え続けているという事実です

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一向に進まないプラスチック製品のリサイクル

 ウィルソン議員はまた、「オーストラリアはゴミとの戦いに負けつつある」とも語っている。

 2017年には、オーストラリアのプラスチック製品のリサイクル率はわずか12%に過ぎず、残りは埋め立てられていたという。だがこの数字は、5年経ってもほとんど変わらなかった。

 国内の業界は、「2025年までにプラスチック製品の70%をリサイクルする」という目標を立てていた。だがこの目標の達成は、現段階では明らかに不可能だろう。

 プラスチックは長い年月が経っても、分解されたり消えてなくなったりしにくい物質だ。人間が捨てたプラスチックは、風に飛ばされ海を漂い、徐々に細かくなってプラスチック片となり、鳥たちの口に入ってしまうのである。

私たちは、私たちの生活様式や決断によって、この惑星を汚染し、自然を殺しているのです

 アドリフト・ラボの一員で、英国自然史博物館の主任学芸員を務めるアレックス・ボンド博士も、この状況を危惧している一人だ。

現在この島のミズナギドリで見られるこの現象は、今後数年、数十年で、間違いなくさらに多くの種で見られるようになるでしょう

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「オーストラリアのガラパゴス島」を守ろう

 ロード・ハウ島は火山島で、これまで陸とつながったことがないため、固有種・固有亜種の鳥たちが生息する野鳥の楽園でもある。時には「オーストラリアのガラパゴス島」と呼ばれることも。

 だが1833年からイギリス人による入植が開始されると、外部からの動物たちが持ち込まれるようになった。

 実はこの島には、もともとコウモリ以外の哺乳類は存在していなかったのだそうだ。それが入植者たちによって、イノシシや牛、羊、ヤギ、ネズミなどが持ち込まれた。

 現在、オーストラリア政府はこの島に後から持ち込まれた生き物を減らし、元の姿に戻そうと試みている。さらに一度に滞在できる観光客の数を400人までに制限し、人間による島の自然への影響を、最小限に抑えようとしている。

 だがそんな努力にもかかわらず、この島の鳥たちは人間の出すゴミによって命を奪われ続けているのだ。

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 レイバーズ博士はこの島のミズナギドリを、「センチネルアニマル(歩哨動物)」と位置付けている。これは主に危険を事前に察知することで、人間に警告を発する役割を担う生き物のことだ。

 例えば有名なところでは、「炭坑のカナリア」が良く知られている。炭坑で作業する労働者たちは、有毒なガスに敏感なカナリアを連れて地下に下り、危険を事前に察知して逃げ出した。

 また、ポーランドでは飲料水の安全性を図るために、ムール貝を指標として使っているという。

 プラスチックやマイクロプラスチックが海を汚し、食物連鎖に入り込み、ついには人間の体にまで影響を及ぼしている今、ロード・ハウ島の鳥たちは、私たち人類にはっきりと危険を知らせるメッセージを送り続けているのだ。

References: Losing the war on waste[https://www.abc.net.au/news/2025-05-15/birds-crunch-full-plastic-losing-war-waste/105221266]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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