
2025年5月、アメリカのコロンビア大学の研究チームが、『Nature』[https://www.nature.com/articles/s41586-025-08958-4]誌(2025年5月7日付)に発表した内容が注目を集めている。
東アフリカに生息するカラフルな鳥「ツキノワテリムク」が、家族ではない仲間と長期間助け合う関係を築くことがわかったのだ。
今回のこの発見は、野生の生き物たちがどのようにお互いを信頼し合い、協力しながら生きているのかについて、新しいヒントを与えてくれるかもしれない。
サバンナで生きるツキノワテリムクの共同生活
ツキノワテリムク(学名:Lamprotornis superbus)は、ケニアやタンザニア、ソマリアなど東アフリカの草原地帯で暮らすスズメ目ムクドリ科の鳥で、鮮やかな青や赤茶色の羽に白い胸元の月の輪マークが特徴だ。
1つの群れには7~60羽ほどが集まって、血のつながった家族はもちろん、外からやってきたよそ者の鳥も一緒に生活している。
コロンビア大学のダスティン・ルーベンシュタイン教授はこう述べている。
彼らの社会は単なる家族ではなく、はるかに複雑なものです。血縁関係のある個体と血縁関係のない個体が、人間と同じように混在して共存しているのです
動物たちの世界では、親子や兄弟姉妹など、血の繋がった「家族」で協力する行動はよく知られている。
しかし今回の研究で特に注目されたのは、家族ではない仲間同士が、長い期間にわたってお互いに協力し合っていた点だ。
20年にわたる研究の結果判明した「ヘルパー」の存在
この研究は、ケニアのムパラ研究センターで、2002年から2021年までの20年間にわたって行われた。
研究チームは9つの社会集団に属する410の巣を観察し、さらに1,175羽のツキノワテリムクに番号をつけ、足環をつけてその行動のデータを収集した。
ツキノワテリムクは年に2回、雨季に繁殖期を迎えるが、研究チームは40回以上の繁殖期を対象に、彼らの行動の調査を続けたことになる。
その結果、ツキノワテリムクの社会では、繁殖期になっても繁殖を行わない個体が、「ヘルパー」として他の繁殖個体の子育てを手伝うことがわかった。
通常、こうした手助けは血の繋がった者同士で行われることが多い。しかしツキノワテリムクは、血の繋がりがない相手の子育てまで手伝うことがあるという。
例えばあるつがいが卵を産んだとき、別の仲間が「ヘルパー」となり、巣を守ったり、ヒナにエサを運んだりする。
さらに繁殖個体には、それぞれ最大16羽のヘルパーがついて、子育てをサポートしていることもわかった。
このように、親鳥以外の仲間も子育てを手伝う行動を「協同繁殖」と呼ぶ。
長期にわたって続く「お互い様」の協力関係
今回の調査では、どの鳥が「ヘルパー」つまり協力者として、どの巣にいる繁殖個体を手伝っているのか、そして彼らがどんな関係なのかについても詳しく調べた。
それにより、528組確認されたヘルパーと繁殖個体のペアのうち、142組は何年にもわたって、お互いに助け合う関係を続けていたことが判明した。
この研究は、彼らの関係が一過性のものではなく、長年にわたって続くものであることを意味している。これは人間の「友情」に似ていないだろうか。
研究チームは彼らの関係を「互恵的協力」と呼んでいる。これは言わば、助け合いの精神に基づいた、「持ちつ持たれつ」の関係と言えるかもしれない。
外部から移り住んできた鳥ほど協力的
もう1つ興味深いのは、群れの中でもよそから入ってきた鳥ほど、積極的に他の巣を手伝う傾向があったことだ。
これは、外から来た個体が新しい仲間と信頼関係を築くために、まず相手を助けることで「仲間として認めてもらおう」としている可能性がある。
人間社会でも、転校生や新入社員が、最初に積極的に手伝いを申し出て仲良くなろうとするような姿を思い起こさせる。
ルーベンシュタイン教授はこう説明する。
これらの鳥の多くは、本質的に時間をかけて友情を築いています。
私たちの次のステップは、彼らの関係がどのように形成され、どれくらい続くのか、そしてなぜある関係は強固に保たれ、他の関係は崩壊するのかを探ることです
動物界における「友情」の進化的意義
これまで、動物の協力行動は主に「血縁選択説」によって説明されてきた。これは血の繋がりのある者同士で助け合う仕組みのことである。
親子や兄弟姉妹など、遺伝子を共有する血縁者同士が助け合うことで、一族の血や遺伝子を残せる可能性が大きくなるからだ。
しかし、ツキノワテリムクのように、非血縁個体同士での長期的な協力関係が存在することは、社会的絆の進化において新たな視点を提供する。
このような行動は、過酷な環境下での生存戦略として、群れ全体の安定性と繁殖成功率を高める役割を果たしていると考えられるのだ。
もちろん、私たち人間が「友情」と呼ぶ関係と、ツキノワテリムクのような鳥たちの助け合いの関係は、まったく同じではないだろう。
けれども、血の繋がりがなくても信頼しあい、助け合うという点では、よく似ていると言えるかもしれない。
自然界には、こうした「お互い様」の関係が、意外なほど多く存在しているとしたらどうだろうか。
人間の「友情」を科学的に考察するきっかけとなる可能性も
今回の研究は、動物たちの社会性や協力の進化について、あらためて考えるきっかけを与えてくれる。 ルーベンシュタイン教授はこう語っている。
この種の互いに助け合う行動は、他の動物たちの世界にもある可能性が高いです。人間がそれを検知できるほど、長期間にわたって研究してこなかっただけなのでしょう
研究チームは、今後もこれらの社会的関係がどのように形成され、維持され、あるいは崩壊するのかについて、さらに詳細な研究を進める予定である。
また、他の種における同様の行動の存在についても調査を行い、動物界における友情の普遍性と進化的背景を明らかにしていくことが期待されている。
この研究は、野生の生き物たちの社会行動に関する理解を深めるとともに、人間社会における友情の起源や進化についても新たな洞察を提供するものである。
ツキノワテリムクの「助け合い」の行動は、私たち人間が築く友情の本質を再考するきっかけとなるかもしれない。
References: New Study Shows That Birds Form Bonds That Look a Lot Like Friendship[https://news.columbia.edu/news/new-study-shows-birds-form-bonds-look-lot-friendship] / A cryptic role for reciprocal helping in a cooperatively breeding bird[https://www.nature.com/articles/s41586-025-08958-4]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。