どんな記録が?ドーピングOKのスポーツ大会が2026年5月にラスベガスで初開催
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 トップアスリートたちの「ドーピング」を許可したら、どこまで記録が伸びるのだろう。その好奇心が出資者の心を揺さぶり、ついに形となった。

 禁止されているドーピング薬を、安全の範囲内で積極的に推奨する異色のスポーツ大会「エンハンスト・ゲームズ[https://www.enhanced.com/]」が、2026年5月、アメリカ・ラスベガスで初めて開催される。

 その目的は、人間の運動能力の限界を押し広げることだ。

 既存の記録を塗り替えた選手には、高額な賞金が支払われるという。だがドーピングによって作られた記録には、どれだけの価値が認められるのだろうか。

ドーピングOKの異例のスポーツ大会が開催決定

 この「エンハンスト・ゲームズ[https://www.enhanced.com/]」は、同名の団体が主催して、4日間にわたり開催されることが決定した。

 現在のところ、行われる競技は陸上・競泳・重量挙げの3種目だ。

 陸上は100mの短距離走と110mのハードル競争(女子は100mのハードル競争)、競泳は50m・100mの自由形とバタフライ、重量挙げはスナッチとクリーン&ジャークを予定しているとのこと。

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ドーピングOK、世界記録更新者には高額賞金

 さらに1種目あたり最大50万ドル(約7,140万円)という高額な賞金が用意されるほか、100m短距離走・50m自由形の世界記録更新者には100万ドル(約1億4,280万円)の賞金が授与される。

 エンハンスト・ゲームズは、来年の大会ではPED(身体強化薬使用)を禁止しないことを発表した。

 ただし大会では、PEDの使用が完全に自由になるわけではない。出場選手は、アメリカ国内で合法かつ医師の処方がある薬剤のみ使用を許可される。

 例としては、テストステロン、成長ホルモン、各種アナボリックステロイドなどが挙げられている。

出資者から資金を調達

 エンハンスト・ゲームズの主催者で、ロンドンを拠点に活動するオーストラリア人実業家アーロン・デスーザ氏[https://arondsouza.com/index.html]はこう語る。

エンハンスト・ゲームズは、21世紀に向けてオリンピックモデルを刷新するものです。

技術と科学の急速な変化の時代に、世界は未来、特に医学の進歩を取り入れたスポーツイベントを必要としています。



我々は人類を前進させるためにここにいます。古いルールはアスリートだけでなく、人類をも阻害していたのです

 デスーザ氏によると、この大会は既にPayPal創業者のピーター・ティール氏や億万長者の投資家、クリスチャン・アンガーマイヤー氏、さらにはドナルド・トランプ・ジュニア氏らが名を連ねている。

 デスーザ氏はすべての資金源を公開していないが、今後は「レッドブル」のビジネスモデルにならい、消費者向けのパフォーマンス向上薬を販売することで収益を得る計画を明かしている。

 レッドブルが自社のエナジードリンクを広めるために過激なスポーツイベントを主催しているように、エンハンスト・ゲームズも同様の戦略を採るという。

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身体強化薬OKの競技会の課題とリスク

 だが、このような大会の開催には、さまざまな問題もついて回る。米国アンチ・ドーピング機構(USADA)は、次のように警笛を鳴らす。

歴史を通して見てきたように、運動能力強化薬 (身体強化薬)は多くのアスリートに深刻な肉体的・精神的負担をかけてきました。中には命を落としたアスリートもいます。

今回の件は、特定の治療目的にのみ処方されるべき強力な物質や方法の乱用を助長し、アスリートの健康と幸福を危険にさらすことになるのは明らかです

 また、参加する選手たちにとってのリスクも心配だ。PED(身体強化薬使用)を前提とした大会となると、出場した選手すべてにドーピング経験者というレッテルが永遠について回ることになる。

 彼らは今後、ドーピングを容認しない国際大会への出場が認められなくなる可能性もあるのだ。

 たとえ高額な賞金を得られたとしても、スポーツ界における選手生命を絶つリスクを冒す選手はどのくらい存在するだろうか。

 このような物議を醸すスポーツイベントを開催したとして、才能あるアスリートたちが、いったいどれだけ集まるだろう。

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引退を撤回してまでこの大会への参加を決めた選手も

 だが積極的にこの大会に参加しようとする選手もいる。多くの国の選手たちにとっては、たとえオリンピックでメダルを取っても、大金が転がり込むわけではないからだ。

 ドーピングして世界記録を破りさえすれば、高額な賞金が約束されているエンハンスト・ゲームズに、魅力を感じる選手も少なからず存在するようだ。

 デスーザ氏は、選手集めについても自信たっぷりの様子だ。

私は世界トップ10に入る、世界最高の水泳選手の1人と話したんです。彼はもう10年以上のキャリアがありますが、今までに稼いだ額は20万ドル(約2,860万円)、つまり平均年収は2万ドル(約286万円)ということになります。

それで彼に、「ねえ、エンハンスト・ゲームズに出場してみないか? これが君の年俸になるんだけど」言ったところ、彼は「やるよ」と即答しました

 例えばオーストラリアの水泳選手で、2012年・2016年のオリンピック・メダリスト、ジェームズ・マグヌッセン選手は、エンハンスト・ゲームズに出場するために、2019年に行った引退宣言を撤回した。

私は毎日、トレーニングにや競技への熱意を持って目覚め、とても健康的な気分でした。正直なことをいうと、この7年間で一番幸せです

 また、ギリシャのオリンピック水泳代表、クリスチャン・グコロメエフ選手は、2025年4月にエンハンスト・ゲームズが主催した競技会で、50m自由形の世界記録を0.02秒縮める非公式な記録を打ち立てた。

 彼はこの競技会の前に、2か月にわたってPEDを摂取したことを認めたが、その際に使った薬は世界水泳連盟の認めるものではなく、彼の記録はあくまで非公式なものである。

 グコロメエフ選手はこのほかにも、禁止されている高速水着を着用するなどして、これまでの公式記録を複数塗り替えたという。

 彼の記録に対し、エンハンスト・ゲームズは次のようにコメントしている。

彼は引退間近でしたが、今では史上最速です。

なぜ社会は進化を恐れるのでしょう。私たちは科学、イノベーション、そしてスポーツを通じて、「超人」を再定義する使命を担っているのです

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身体強化薬は科学の証?

 世間からは”ステロイド版オリンピック”とも揶揄されているが、デスーザ氏は全く意に介さない。

 彼は既存のスポーツ機関やアンチドーピング機構を「反科学」と呼び、そのアンチ・ドーピング規則は時代遅れであると主張する。

 デスーザ氏は、この大会がオリンピック記録を塗り替えたり、伝統的なスポーツの信用を失墜させようとしているわけではないと述べている。

栄養学やテクノロジーは、既にあらゆるメジャースポーツで大きな役割を果たしています。そして、そういった分野に投資する余裕のある選手や団体に、明確なアドバンテージを与えています。

では、PED(競技用薬物)は何が違うというのでしょうか? 多くの人が破綻したアンチ・ドーピング制度と呼ぶものの代わりに、こうしたパフォーマンス向上薬を大衆の娯楽として前面に押し出す方が、はるかに良いアイデアではないでしょうか。

 デスーザ氏は、2011年に行われた世界アンチ・ドーピング機構(WADA)による調査を引用する。そのデータとは、アスリートたちの43.6%が、前年に禁止薬を使用していたというものだ。

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ドーピングが禁止される理由

 だが、ドーピングが禁止されているのには理由がある。摂取した選手の心身に悪影響を与える副作用も確認されており、選手生命の短縮はもちろん、命にかかわる恐れもあるからだ。

 また、スポーツマンシップやフェアプレイの精神に反するのも、ドーピングを禁止する大きな理由の一つだ。

 公正さはスポーツの大会にとっては大切な価値観であり、ドーピングというルール違反がまかり通るとなれば、青少年への悪影響も無視できない。

 さらに、ドーピングが薬物の乱用に繋がる可能性もある。薬の力で超人的な能力を発揮できるとなれば、短絡的に薬物に走るアスリートも増えるだろう。

 USADAのCEOトラビス・タイガート氏は、エンハンスト・ゲームズについて、「理念よりも利益を優先するものである」とし、次のように切って捨てている。

これは危険な道化師のショーであり、真のスポーツではない

 エンハンスト・ゲームズは、2026年5月21日から24日まで、ラスベガス・ストリップのリゾートワールドで開催される。

  みんなはドーピングによる人間離れした力で、新記録が打ち立てられるシーンを見たいだろうか。

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References: Enhanced Games AKA ‘Olympics on Steroids’ to Be Held Next Year in Las Vegas[https://www.odditycentral.com/events/enhanced-games-aka-olympics-on-steroids-to-be-held-next-year-in-las-vegas.html]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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