
もふもふの白い毛が生えた魚、「毛皮マス」に関する目撃例はアメリカ、カナダ、アイスランドなど、世界各地で報告されている。
その理由は、水温が低すぎる川に適応するために毛皮をまとうようになった、という説から、育毛剤が川に流れ込んで突然変異したという説まで、長年にわたり、地域ごとにユニークな都市伝説が語られている。
果たして毛皮マスは実在するのか?噂の真相に迫ってみよう。
毛皮マスの起源と伝説の広がり
「毛皮マス(Fur-bearing trout)」は、世界各地の寒冷地を中心に語られてきた白いもふもふの毛を持つ魚のことだ。
その起源については諸説あるが、最古のものは17世紀のスコットランド移民が本国の家族に宛てた手紙だとされている。
そこには「アメリカ大陸には毛皮の動物や魚が豊富にいる」と書かれており、「毛皮の魚を送ってくれ」と頼まれたことで、この奇妙な魚の話がヨーロッパにも伝わったとされる。
世界各地に伝わる「毛皮マス」伝説
「毛皮マス(Fur-Bearing Trout)」に関する話は実に多彩で、まるで魚界のUMA(未確認動物)といった様相を呈している。
アメリカ:爆発するマスと育毛剤伝説
おそらくアメリカで最も古い記録は、1929年、モンタナ州の自然雑誌『モンタナ・ワイルドライフ[http://www.furbearingtrout.com/]』だ。
地元の自然愛好家J.H.ヒッケン氏が、アーカンソー川に棲むマスが体温を維持するために毛皮を進化させたと紹介した。
しかもこの毛皮マス、釣り上げると気温差で「爆発」し、皮ごと毛が一体となってはがれ落ちるという。
皮は毛皮製品として、身は冷蔵して食べられるという、まるで実用性まで完備された魚なのである。
さらに、「育毛剤が川に流れて突然変異した」、「釣り人が床屋に変装して“無料で毛をカットしますよ”と声をかけると、毛皮マスが嬉しそうに水面に現れてくる」など、都市伝説らしいユニークな説も各地で語られている。
アイスランド:呪われた毛皮マスと妊娠の呪い
アイスランドには「ロズシルングル(Loðsilungur)」という名の毛皮マス伝説がある。これは悪魔や巨人によって創造された呪いの魚とされ、人間の不道徳に対する罰として川に大量発生する。
その伝承の中には、「この魚を食べた男は妊娠し、陰嚢を切開して出産することになる」という、シュールを通り越してカルト的な内容まで登場する。
カナダ:毛皮マスの剥製まで登場
カナダ・オンタリオ州スーセントマリーでは、スペリオル湖で「白い毛に覆われたマスを見た」という噂がまことしやかに語られていた。
この噂を背景に、地元の剥製師、ロス・C・ジョーブ氏は、この毛皮マスを実際に存在するかのように見せるため、白ウサギの毛をマスに貼り付けた剥製を制作した。
1950年代、この剥製は観光客の目に留まり、「本物の珍種」と信じた人が続々と購入していったという。
やがてスコットランド王立博物館に寄贈されると、博物館側も当初は困惑したという。
後に調査の結果、これは模造品であることが判明したが、しばらくは展示されていたそうだ。
だがこの剥製の存在が、「毛皮マスは実在するのでは?」という都市伝説を一層リアルなものとして世に広める要因となった可能性は高い。
毛皮マスは実在するのか?
さて、そもそもこの毛皮マス、本当に実在するのか?
結論から言えば、正式に「毛皮マス(Fur-bearing trout)」という種は確認されていない。つまり、魚類学的にも、科学的にもそのような魚は「いない」とされている。
だが、「全くの作り話」と片付けられないのがこの伝説の面白さだ。現実に“毛が生えたように見える魚”が存在することもまた事実なのだ。
ミズカビにより魚に「毛が生えた」ように見える現象がある
この現象の原因となるのが、ミズカビ(学名:Saprolegnia)と呼ばれる卵菌類の一種である。
感染が進行すると、魚は次第に体全体を白い繊維状の菌糸に覆われ、まるで毛皮をまとったかのような姿になることがある。
さらに重度の感染で魚が死んだ後も、ミズカビの菌糸は成長を続け、白くフワフワとした外見のまま岸に打ち上げられることがある。
こうした魚の姿を目撃した人々が、「毛の生えた魚=毛皮マス」だと誤認した可能性は非常に高い。
つまり、実際に毛皮を持つ魚がいたという話の多くは、ミズカビに感染した魚の見た目を誤解したものと考えられている。
毛のような突起を持つ深海魚の存在
もうひとつ、見た目の上で“それっぽい”魚が存在する。
それが、1956年にアゾレス諸島沖で発見された深海魚、ミラピンナ・エサウ(Mirapinna esau)[https://en.wikipedia.org/wiki/Mirapinna]である。
この魚の体表には毛のような細長い突起(感覚器官と考えられている)が無数に生えており、さらに翼のように広がった胸びれを持つ奇妙な姿をしている。
ただし、このミラピンナ・エサウは、マス(トラウト)の仲間ではなく、クジラウオ科の一種で深海魚だ。そのため毛皮マスとは分類上は関係ない。
しかも大西洋の中央部、アゾレス諸島近海にのみ生息する。
とはいえ、もしこのような魚が目撃され、うっすらとでも「毛に見える部分」があったとしたら、人々が「毛のある魚だ!」と錯覚するのも無理はないだろう。
今も語り継がれる毛皮マスの魅力
2015年、アメリカ・ウィスコンシン州で「毛皮に覆われた奇妙なマスが釣り上げられた」とするニュースが報じられた。
釣ったとされるのは、メノモニー川で釣りをしていた地元の大工、ジョージ・ウェーバー氏だ。
公開された写真は、頭部と尾を除く全身が真っ白な毛に覆われており、剝製師のロス・C・ジョーブ氏がウサギの毛を張り付けて作った模造品そっくりなため、信憑性のほどはわからない。
だがこの報道は一部メディアや都市伝説系のフォーラムで話題となり、かつての毛皮マス伝説が再燃するきっかけとなった。
真偽は不明のままだが、毛皮マスがいかに「信じたくなる都市伝説」であり続けているかを如実に物語っている。
References: Fur-bearing trout[https://en.wikipedia.org/wiki/Fur-bearing_trout#cite_note-sjon-8] / Legend of Ross C. Jobe’s furry trout lives on in Scotland[https://www.sootoday.com/columns/remember-this/legend-of-ross-c-jobes-furry-trout-lives-on-in-scotland-3573128] / Man catches weird 'furry' trout in Wisconsin[https://www.unexplained-mysteries.com/] / Furbearingtrout[http://www.furbearingtrout.com/]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。