
未来都市シンガポールでは、ロボット犬が地下の保守作業場、建設現場、さらには社会福祉の現場で活躍し、市民生活を支えている。
コロナのパンデミックの最中に、シンガポールでボストンダイナミクスの「スポット」がソーシャルディスタンス維持の守護者となって一躍話題になったことはみんなも覚えているだろう。
以来ロボット犬は、障がい者支援やインフラ管理の場でも重要な役割を果たす存在となり、スマートシティに不可欠な「テック・パートナー」という愛称でも呼ばれている。
シンガポール大学のプロジェクトで訓練中のAI搭載ガイド犬や、パトロール、地下トンネルや列車の点検に従事する「Mars」「SPock」「Avatar」など、さまざまなロボット犬がその道のスペシャリストとして活躍中だ。
コロナ禍でソーシャルディスタンスを維持したスポット
新型コロナウイルスのパンデミックの最中だった2020年5月8日シンガポールで、アメリカのロボット研究開発企業ボストンダイナミクスのスポットが、人々のソーシャルディスタンス維持に協力した。
試験的に運用されたスポットが、ロックダウン中の公園で、人間同士の適切な距離をうながすため、音声警告システムを駆使する姿は、コロナのデマや感染リスク回避で混乱する世界の注目を集めた。
さらに当時のスポットは、シンガポールで、貿易センター内の隔離施設にいる軽症患者へ医薬品を送り届けた。
この出来事は、高感染リスクの環境で医療従事者の負担を軽減すると同時に、病院と連携したデジタルヘルスケアを実現するロボット犬が、今後の社会的危機においても迅速かつ効果的な対策手段になりうることを示す代表例になった。
障がい者支援に挑むAI搭載ガイド犬
シンガポールでは福祉分野でもロボット犬が協力中だ。国立シンガポール大学(NUS)スマートシステム研究所では、ロボット犬を利用した視覚障がい者支援プロジェクトが進展中だ。
この取り組みは、2024年6月の時点で国内の現役のガイド犬(盲導犬)がたった9頭、という現状を機に始まった。現在約12名の視覚障がい者を対象に、四足歩行ロボットの訓練が行われている。
それは本物のガイド犬の代わりに、AI搭載で高度な口頭指示が理解でき、画像認識もするロボット犬を使い、階段やでこぼこした場所でも安全に移動できるような訓練だ。
プロジェクト初期は、スマートグラスなど、別のサポート機器の利用も検討したが、機敏な四足歩行のロボットの優位性が実証されたため、最終的にロボット犬が選ばれたという。
将来的には、交通ハブや公園を含む大規模展開が期待されている。
警備・点検の現場で役立つロボット犬
シンガポールの都市基盤、インフラ管理現場では、以下のロボット犬たちが警備や点検のスペシャリストとして活躍している。
バス車庫の周辺をパトロールするMars
シンガポールの公共交通事業者 SBS トランジットが運用中のMarsは、国内のテック企業Weston Robotが開発したロボット犬だ。2024年9月からバス車庫の周辺をパトロールしている。
このロボットは、高精細カメラと熱画像センサーで、侵入者やフェンスのいたずらの兆候を即座に検知する。
インフラの保守点検を行うSPock
シンガポール国有企業のSPグループが採用したロボット犬。中国のロボット企業 Deep Robotics が開発した 「X30」は、「SPock」という愛称で呼ばれている。
SPockは、従来の車輪型ロボットでは難しかった階段や不整地での作業ができ、直感的な操作ができるナビシステムも搭載している。
全長約6kmにも及ぶ地下トンネルの点検作業をSPockがサポート。人間が立ち入りにくい危険箇所の亀裂や湿気も自動検知する有用なロボット犬だ。
列車の点検を行うAvatar
Avatarは、SBSトランジットが運用する列車の点検用ロボット。
このロボットは、2023年5月24日からシンガポールのセンカン車両基地で列車の下の構造を精密に点検する仕事に就き、パネルのゆるみなどをチェック。技術者の負担軽減と安全確保に大きく貢献している。
シンガポールで欠かせない存在となったロボット犬
このようにシンガポールではロボット犬が幅広い任務に従事している。
それは同時に、ロボット犬が単一の用途に留まらず、医療、建設、公共サービスといった多様なミッションに対応できる柔軟性と高度な移動性を備えることを意味する。
また、製造コストが大幅に下がったことも注目すべき点といえるだろう。
シンガポール市場においての一例だが、たとえば以前7万5000ドル相当(約1,000万円)だったロボット犬が、2025年の時点で3,500シンガポールドル(約40万円)という大幅な価格低下も、各分野での普及の後押しになったとみられる。
急成長するロボット産業:ロボット犬は技術的なパートナー
シンガポールにおいてロボット犬は、単なる機械ではなく、都市の安全と福祉、効率的なインフラ管理を叶えるパートナーになりつつある。
ソーシャルディスタンスの守護者や障がい者支援、警備や点検など、多彩な任務をこなすロボット犬は、今や都市に安心感と利便性をもたらす必要不可欠な存在なのだろう。
実際、シンガポールのロボット産業は、2023年の約200社から、2025年の現時点で300社以上に増加するなど、目覚ましい成長を遂げている。
人間にとって有益な相棒となったロボット犬は、今後もさらなる進化を遂げながら、シンガポールの人々や都市に貢献を重ね、この都市そのものを新たなステージへといざないそうだ。
References: Straitstimes[https://www.straitstimes.com/singapore/who-let-the-bots-out-robot-dogs-on-the-job] / Interestingengineering[https://interestingengineering.com/innovation/robot-dogs-gain-ground-in-singapores] / Straitstimes[https://www.straitstimes.com/singapore/jobs/engineer-trains-robot-dog-protect-singapore-power-tunnels-underground-sp-group]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。