首都圏を水害から守る埼玉県の外郭放水路、巨大神殿のように美しいと海外で話題に
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 埼玉県春日部市の地下深くに、世界最大級の地下貯水施設が存在する。「首都圏外郭放水路」はまるで古代の大神殿のようで美しいと、海外からも多くの関心を集めている。

 だがこの構造物の本質は、その建築美でも巨大さでもない。都市を守るための、極めて実用的かつ緻密な防災インフラなのである。

首都圏を水害から守る「防災地下神殿」

 首都圏外郭放水路は、春日部市を走る国道16号線直下、約50mの地点に設けられた、延長6.3kmに及ぶ地下トンネルだ。

 2006年に完成したこの施設は、首都圏の洪水被害を防ぐために設計されたものである。

 中川や倉松川、大落古利根川といった中小河川が、大雨などで氾濫しそうになったとき、5本の垂直立坑を通じて水を一時的に地下に取り込み、その一部を江戸川へと排水する。

 この巨大構造物の中でも目を引くのは、「調圧水槽」と呼ばれる部分である。

 長さ177m、幅78m、高さ18mの空間に、天井を支える59本の巨大柱が林立するその姿は、古代の神殿にも似た荘厳さで見る人の目を奪う。

 この広大な調圧水槽が、一時的に洪水の水を受け止め、トンネル内の水位を調整する役割を担っているのである。

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  このプロジェクトの構想が始まったのは1980年代で、当初から都市部の急激な宅地開発と集中豪雨のリスク増加に備えた「治水」計画だった。

 日本では急激な都市化に伴い、アスファルトによる地面の被覆率が高まり、雨水の地下浸透が阻害される傾向が強い。

 これにより、都市部では大雨が降ると短時間で排水能力を超える水量が流れ込み、都市型水害の危険が高まっていた。

 東京を含む首都圏では、1年の降水日数は平均で100日以上あり、年間降水量は約1,600mmに達する。

 江戸川河川事務所の説明によると、この首都圏外郭放水路は過去21年間で140回稼働したという。

これは年平均だと7回の計算になる。

 2015年9月の台風で、上流にある鬼怒川の堤防が決壊した際は、4日間で約1,900万立方mの水を排水したそうだ。

 地下にあるためなかなか我々の眼に直接は触れないが、この施設は首都圏における水害対策で、極めて高い効果を発揮していると言えるだろう。

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日本の水害対策の要となる「水管理」の考え方

 日本の公益財団法人 リバーフロント研究センター理事の土屋信行氏によると、洪水のパターンは予測可能なため、的を絞った対策が可能であり、都市のインフラを支える上でも不可欠だと言う。

「水管理」とは、単に一時的に水を管理するということではなく、100年後、あるいはそれ以上先の未来に私たちが豊かな水を確保できるように、いかに水を大切にしていくかということなのです

 土屋氏はまた、こうした水害は自然の必然によるものではなく、都市計画や開発の不備に起因することが多いとも強調した。

 日本は災害の多い国だ。中でも地震はいつどこで起きてもおかしくない災害であり、誰もが大なり小なり危機意識を持って暮らしているのではないだろうか。

 だが洪水となると、海や川に近い場所だけの問題だと思われがちで、それが日本の水害対策が後手に回る結果を生んでいるという。

 首都圏外郭放水路の地下構造物は、最大で約67万立方mもの水を一時的に保持できる設計となっていて、これはオリンピックサイズのプール268個分に相当する規模である。

 この施設の設計と建設にあたっては、日本の土木技術が総動員された。5本の立坑は直径が約30m、深さは約70mにも及び、巨大な掘削機やシールドマシンを使って慎重に掘り進められた。

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撮影場所や見学コースとしても大人気

 地盤の強度や地下水位、周辺の交通や地盤沈下への影響にも配慮しながらの工事は、1993年の着工以来、2006年の全区竣工まで13年の歳月を要した。

 この膨大な労力と費用をかけたプロジェクトは、単なるハードインフラでは終わっていない。

 特撮番組や映画、ドラマなどの撮影にもよく利用されており、ウルトラマンや仮面ライダー、戦隊もののほか、MVなどでもおなじみの舞台となっている。

 そしてインバウンドが進む中、今やこの施設は観光資源としても活用されており、事前予約制の見学ツアーでは毎年多くの見学者が訪れている。

 特にSNS映えする調圧水槽は、日本が誇る「防災地下神殿」として、国内外のメディアでもたびたび紹介され、外国人観光客の人気スポットになっているようだ。

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 この神殿内、現在は5つのツアーコースが設定されており、予約すれば見学が可能である。

 2025年5月現在の各コースの概要は以下の通り。ポンプ稼働時の見学の可否や、子どもの参加の条件などはコースごとに違うため、詳細については公式HP[https://gaikaku.jp/course/]を参照してほしい。

大人気!地下神殿コース
■定員:50名
■所要時間:約55分
■参加料金:おひとり様 1,000円
コンシェルジュによる施設概要説明と自由見学時間

迫力満点!立坑体験コース(展示室+調圧水槽+第1立坑)
■定員:20名
■所要時間:約110分
■参加料金:おひとり様 3,000円
地下神殿に加え、第1立坑のキャットウォーク(作業員用通路)を歩き、立坑内の階段を途中まで降りる。深さ70メートルの迫力を存分に楽しむコース。

深部を探る!ポンプ堪能コース(展示室+ポンプ室+調圧水槽)
■定員:20名
■所要時間:約100分
■参加料金:おひとり様 2,500円
首都圏外郭放水路の心臓部であるポンプをメインに構成したコース。地下神殿「調圧水槽」とポンプ室内を見学。

見どころ満載!インペラ探検コース(展示室+調圧水槽+調圧水槽奥部インペラ)
■定員:20名
■所要時間:約110分
■参加料金:おひとり様 4,000円
調圧水槽最奥部にある巨大なインペラ(羽根車)を特別装備で見学。第一立坑から調圧水槽、排水ポンプのインペラ(羽根車)へと水の流れが実感できる見どころ満載のコース

地下河川を歩く!アドベンチャー体験コース(展示室+ポンプ室+第3立坑+第1立坑+調圧水槽+調圧水槽奥部インペラ)
■定員:16名(最少催行人員5名)
■所要時間:約240分
■参加料金:お一人様 15,000円
これまで公開されている見学のメインである防災地下神殿や第1立坑に、新たに第3立坑(地下トンネル)を見学場所に追加し、防災の大切さ、技術者の想いや工夫を体験できるスペシャルコース

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References: World’s largest underground reservoir holds water equal to 268 Olympic pools[https://interestingengineering.com/innovation/worlds-largest-underground-reservoir]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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