
アメリカ・ペンシルベニア州の湖のほとりで、木から白い大きな物体がぶら下がっていると通報を受けた州の野生動物保護局が、地元の消防署と連携して調査に乗り出した。
その結果、木で宙吊りの状態になっていたのは、1羽のダイサギであることが判明した。
この鳥は、捨てられた釣り糸に翼が絡まってしまったため、飛ぶことができず、少なくとも24時間以上この状態だったという。
ダイサギはようやく救助され、リハビリによって無事に回復し、再び空へと帰っていった。
湖のほとりの木にぶら下がっていた巨大な白い物体
2025年5月上旬、ペンシルベニア州ヨーク郡にあるキワニス湖で、白い物体が木からぶら下がっているのを見たという通報が、州の野生動物保護局に相次いで寄せられた。
現場に駆けつけた職員たちは、湖のほとりに立つ高い木の枝から、大きな白い鳥が翼を広げたまま垂れ下がっているのを発見した。
よく見ると、木の枝には釣り人が捨てたとみられる釣り糸が引っかかっており、飛行中にその糸に翼が絡まったことで、鳥は宙づりの状態になっていた。
鳥は苦しそうに動かず、明らかに衰弱している様子だった。
だがこの日は悪天候で、安全な救助が難しいと判断され、翌日の作業に持ち越されることになった。
保護局と消防隊が連携してダイサギを救出
翌朝、ヨーク市消防局とドーバー郡消防署が現場に加わり、州の野生動物保護局と合同で救助作戦が行われた。消防隊がボートと長いはしごを用意し、職員たちは湖を渡って木に接近した。
はしごを使って鳥の位置まで慎重に登り、釣り糸を切断。ようやくダイサギは枝から解放され、毛布でやさしく包まれて保護された。
鳥はそのまま、「レイヴンリッジ野生動物センター(Raven Ridge Wildlife Center)」へと搬送された。
ぐったりしていたが、奇跡的に軽傷だった
野生動物センターに到着したダイサギは、ぐったりとした様子でケージに運ばれた。リハビリ担当のトレイシー・ヤングさんによると、「非常に疲れきっていて、体はずぶ濡れだった」という。
センターでは隔離スペースで休養させた後、詳しい診察が行われた。
翼が釣り糸に絡まり丸一日以上も宙づりになっていたにもかかわらず、骨折や深刻な裂傷は見られなかった。軽い打撲や擦り傷に対して痛み止めを処方し、ゆっくりと体力の回復を待った。
回復後、再び大空にへ戻る
それから約2週間後、ダイサギはすっかり元気を取り戻した。
スタッフたちは回復したダイサギをキャリーケースへと移し、再びキワニス湖のほとりに運び、キャリーケースの扉を開けた。鳥は一瞬空を見上げると、美しい白い翼を大きく広げ、力強く空へと舞い上がっていった。
ダイサギとは?
今回救助されたダイサギ(Ardea alba)は、シラサギの一種の大型の水鳥で、全身が白く、細長い首と鋭い黄色のくちばしを持つ。飛ぶときには首をS字に折りたたみ、足を後方に伸ばす姿が特徴的である。
成鳥の体長は約90cm前後、翼を広げたときの長さ(翼開長)は約131~170cmに達し、日本で見られるサギ科の中でも最大級だ。
足は黒く、繁殖期には目の周りが緑色に変化する。
ダイサギは世界的に広く分布しており、アジア、アフリカ、アメリカ大陸、南ヨーロッパに4つの亜種が存在する。
湖沼、湿地、河口、マングローブ林など水辺の環境を好み、魚やカエル、昆虫などを待ち伏せして素早く捕らえて食べる。
かつては飾り羽が帽子などに使われたことから、19世紀には乱獲によって個体数が激減した。しかしその後の保護活動によって回復し、現在個体数は維持されている。
日本では本州以南で夏鳥または冬鳥として観察されることがあり、河川や水田などでもその姿を見ることができる。
今回の出来事が示しているのは、人間の捨てたゴミは、野生動物の命に重大な危険を及ぼすという事実だ。
特に釣り糸は細くて強度が高く、木の枝に引っかかっていても見えにくいため、鳥や小動物が簡単に絡まってしまう。
自然を楽しむことと、生き物への配慮は両立できる。ゴミは捨てずに持ち帰る。それを守るだけでも野生動物を危険にさらすリスクを減らすことができるのだ。