
大量に発見されながら、その正体が長く不明だった陶器の欠片が、実は赤ちゃん用のガラガラだったことが明らかになった。
1930年代、シリア中部ハマで発掘されて以来、90年近くその用途が分からずにいたが、2025年、ダマスカス大学の考古学者チームの研究により、約4000年前の乳児用おもちゃであると特定された。
そのきっかけは、研究者がダマスカス国立博物館の収蔵品の中で、同じ形状の遺物を偶然目にしたことによる。
古代シリアの赤ちゃんたちも、現代の子どもたちのように、大切に育てられ、音が鳴るおもちゃを与えられていたのだ。
1930年代に発見された正体不明の陶器の破片
シリア中部にある古代都市ハマで、1930年代にデンマークの考古学者ハラル・イングホルト教授率いる発掘隊が、大量の陶器片を発見した。
それらの一部は、用途が分からないまま「不明な遺物」として収蔵され、長らく研究対象にもならなかった。
その謎に光を当てたのが、ダマスカス大学のジョルジュ・ムアマール博士を中心とする考古学者チームだった。
博士はデンマークに保管されていた不明な遺物の中に、ダマスカス国立博物館で以前目にした赤ちゃん用ガラガラと似た形状の取っ手を偶然発見し、そこから再調査が始まった。
この研究は、古代ハマの暮らしを幅広く再構築するプロジェクトの一環として進められており、リーダーを務めるデンマーク国立博物館のメッテ・ハルド博士は、「古代の子どもの生活」をひとつの重要な研究テーマとしている。
赤ちゃんが握れるサイズ、装飾もさまざま
調査対象となったのは、紀元前2500年~2000年ごろの「初期青銅器時代IV期(EB IV)」に属する19点の陶器片で、いずれもハマの住宅地から出土している。
破片はいずれも中空の持ち手部分を含み、長さは4.5~6cm、直径は2cmと、乳児が握るのにちょうど良いサイズだった。
持ち手は円筒形で、突起状のノブ(つまみ)が付いているものや、平らな底を持つものなどがあった。
唯一、丸い底でノブのないタイプも1点確認されている。装飾が施されたものも多く、赤や黒、暗い黄褐色の帯模様や、渦巻き、斜線などが見られた。
同様のガラガラは、アル・ザラキヤート、カトナ、テル・アス、テル・アラクなど周辺の遺跡でも見つかっており、「北レバント型ラトル」と呼ばれる地域的な特徴が認められている。
内部には小石、赤ちゃんをあやすやさしい音
アル・ザラキヤートでは、小石や焼かれた粘土玉が中に残ったままの完全なガラガラが発見されている。
内部の素材は劣化しにくく、穴も小さいため中身が外に出ることはなかった。
実験では、それらのガラガラが発する音は、現代のプラスチック製ガラガラと似た、やわらかく心地よい音だった。音量は小さく、楽器として使用するには不向きだが、乳児をあやすにはちょうど良いレベルだった。
これらの出土状況や音響特性を踏まえ、研究チームは、これらのガラガラが主に家庭内で乳児の世話に使われていた可能性が高いと結論づけている。
都市の変化とともに必要とされた育児道具
ガラガラが出土したJ6層と呼ばれる地層では、都市の構造に大きな変化が見られる。以前のような広々とした街路から、狭い路地に密集した住宅が立ち並ぶ形へと変化しており、人口の増加が推測される。
このような社会の変化の中で、家庭にはより多くの乳児が存在し、親たちは外での労働に追われることも増えた。
その結果、年上の兄や姉が赤ちゃんの面倒を見る機会も多くなり、音の出るガラガラのような道具が役立ったと考えられる。
形や装飾の一定性から、こうしたガラガラは当時の陶工たちが定番品として日常的に製作していた家庭用品だった可能性が高い。
古代の子育てに新たな視点
この研究は、これまで見過ごされてきた「古代の子どもたちの生活」に着目した点でも大きな意義がある。
プロジェクトを率いるハルド博士は、「ハマの収蔵品の中には、まだ気づかれていない子どもに関連する遺物があるかもしれない。今後も注意深く調査を進めたい」と語っている。
この論文は、学術誌『Childhood in the Past[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17585716.2025.2489258]』誌(2025年4月30日)に掲載された。
References: Infant Care in Early Bronze Age Syria: Newly Identified Clay Rattles at Hama[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17585716.2025.2489258] / Mysterious Syrian artifacts reidentified as ancient baby rattles[https://phys.org/news/2025-05-mysterious-syrian-artifacts-reidentified-ancient.html]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。