
白亜紀後期、恐竜がまだ大地を支配していた時代に、極寒の北極圏で鳥たちがそのすぐそばで巣を作りヒナを育てていた。
その証拠となる化石がアラスカ北部で発見された。
見つかったのは約7300万年前の地層から出土した、数十もの微細な鳥の骨の化石で、中にはヒナのものも含まれていた。
これまで北極圏で鳥が営巣していた最古の記録は4700万年前だったが、今回の発見でその時期が3000万年近くさかのぼることが明らかになった。しかもそこには恐竜が近くにいたというのだから驚きだ。
この研究は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adt5189]』(2025年5月29日付)に掲載された。
鳥たちは北極圏の恐竜のいる近くで巣を作っていた
アメリカ・アラスカ大学の研究チームは、北極圏にあるアラスカ北部の「プリンスクリーク層」から50点以上の鳥の骨やその断片の化石を発見した。
発見された7300万年前の骨の化石は、カモメに似た鳥や、カモ・ガチョウに似た水鳥、潜水性の小型鳥など複数の種類があった。
そこにはヒナの骨も含まれており、恐竜が生息していたその時代に、同じ場所で鳥たちが営巣し、ヒナを育てていたのだ。
従来、鳥類が極地(北極・南極)で子育てをしていた最古の証拠は、4700万年前のものであった。つまり、恐竜絶滅(6600万年前)よりずっと後の時代とされていた。
しかし今回の発見により、鳥たちは少なくとも7300万年前にはすでに極地で繁殖していたことが確かめられた。
記録は一気に3000万年近くさかのぼることになる。
論文の筆頭著者であるローレン・ウィルソン博士は、「鳥は1億5000万年前から存在していますが、その長い歴史の中で、極地での子育てはかなり早い段階で始まっていたようです」と述べている。
鳥の骨はもともと軽く壊れやすく、特にヒナの骨はスポンジ状で化石として残ることはほとんどない。
「白亜紀の鳥の骨が見つかること自体がまれなのに、ヒナの骨が保存されていたのは本当に奇跡的」とウィルソン氏は語っている。
これらの骨は現在、アラスカ大学博物館の所蔵品となっており、今後さらに詳しい分析が予定されている。
恐竜と鳥が同じ場所で暮らした北極圏の生態系
鳥の骨が見つかったプリンスクリーク層は、恐竜の化石が多数発見されることで知られる地域だ。
このことは、恐竜と鳥が同じ場所を共有しながら、それぞれの暮らしを営んでいたことがわかる。
論文の共同著者であり、アラスカ大学博物館の館長でもあるパット・ドラッケンミラー氏は「北極は、現代の鳥たちにとっての“ゆりかご”であり、それは7300万年前から変わっていない」と述べている。
アラスカが“恐竜時代の鳥類研究”の最前線に
今回の発見は、アラスカ大学の独自の発掘手法によってもたらされた。
一般に古代の脊椎動物の研究においては、大きな骨の回収が重視される。ところがウィルソン氏らは、目に見えるものだけでなく、土を篩にかけて残る顕微鏡でしか見えないような小さなものまで、あらゆる骨を集めている。
それらの細かい堆積物を採取してラボで顕微鏡観察を行うという手法が、鳥のような小型動物の化石を次々と明らかにしている。
「これによってアラスカは、恐竜時代の鳥類化石研究の中心地となりました」とドラッケンミラー氏は話す。
現代鳥類の祖先かもしれない
いくつかの骨には、現代の鳥類に特有の構造が見られた。特に歯を持たない点は、今鳥亜綱(Neornithes)と呼ばれる現生鳥類の特徴である。
もし今回の化石が今鳥亜綱に属していると確認されれば、これまで知られていた最古の記録(約6900万年前)をさらに更新することになる。
ただし、その確証を得るためには、部分的あるいは全体的な骨格のさらなる発見が必要とされている。
References: Arctic bird nesting traces back to the Cretaceous[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adt5189] / Study finds birds nested in Arctic alongside dinosaurs[https://www.uaf.edu/news/study-finds-birds-nested-in-arctic-alongside-dinosaurs.php]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。