猫はにおいで知っている人と知らない人を嗅ぎ分けることができる(日本の研究)

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 猫はどうやって、飼い主とそれ以外の人間を見分けているのだろうか。例えばたくさんの人が並んでいる中から、愛猫は飼い主をすぐに探し当てられるのだろうか。

 猫は人間のにおいを嗅ぐことで、飼い主やよく知っている人と、見知らぬ人を嗅ぎ分けられることが、日本の東京農業大学の研究チームによって明らかになった。

 だが、においだけで、特定の人物を識別できるかどうかについてはまだ明らかになっておらず、今後の研究が待たれている。

 この研究は『PLOS ONE[https://doi.org/10.1371/journal.pone.0324016]』誌(2025年5月28日付)に掲載された。

「猫はにおいで人を識別できるか」という科学的実験

 この事実は、2025年5月28日付のPLOS One[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0324016]誌に掲載された、「飼い猫の人間の匂いに対する行動反応」という論文によって明らかにされた。

 論文を発表した東京農業大学の研究チームによると、実験に協力してくれたのは、ペットとして飼われている30匹の猫たちだ。内訳はオスが11匹、メスが19匹である。

 さらに17人の猫の飼い主たちと、8人のまったく猫たちと接点のない人物が、においのサンプルを提供した。

 猫たちの前には、それぞれ3種類のプラスチック製のチューブが置かれた。チューブの中には、以下の3つのサンプルが入っていた。

  • 飼い主のにおいをつけた綿棒
  • 今まで会ったことのない他人のにおいをつけた綿棒
  • 無臭の綿棒

 においのついた綿棒は、飼い主と他人の「脇の下・耳の後ろ・足の指の間」にこすりつけて、それぞれのにおいを採取したものである。

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 こうして行われた実験の結果は、以下のようなものとなった。

見知らぬ人のにおいはより長く嗅ぐ

 猫たちは見知らぬ他人のにおいはより長い時間をかけて嗅ぎ、逆に飼い主のにおいは短時間でスルーした。

 つまりどうやら猫たちは、「これは知ってる人のにおい」「これは知らない人のにおい」と、人間の個体の識別をにおいを使って行っているらしいことが確認された。

 新しいにおいにはより注意を払うものの、飼い主のにおいは既によく知っているため、時間をかける必要がないというわけだ。

 同様のパターンは以前にも観察されており、子猫は自分の母猫のにおいより、見知らぬメス猫のにおいをより長く嗅ぐことが知られている。

 また成猫の場合は、自分が属する集団の中の猫の糞よりも、外部の猫の糞を長く嗅ぐのだそうだ。

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未知のにおいは右の鼻の孔で嗅ぎ、その後左に切り替える

 さらにこの研究で興味深かったのは、左右の鼻の孔のどちらで嗅ぐかが、対象によって違うことをを示す観察結果である。

 猫は馴染みのあるにおいは左の鼻孔で嗅ぎ、未知のにおいは右の鼻孔で嗅ぐ傾向が強いことがわかったのだ。

 さらに未知のにおいを右の鼻孔で嗅いだ後、時間の経過とともに左の鼻孔に切り替える様子も観察された。

 おそらく猫たちは新しいにおいの情報を右脳で処理しており、そのにおいにある程度馴染んで定型的な反応が確立されると、左脳がその役割を引き継ぐと見られている。

 つまり猫は右脳と左脳を使い分け、右の鼻孔からの情報は右脳で「新しい刺激」として、左の鼻孔からの情報は左脳で「既知の刺激」として処理している可能性を示唆している。

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猫の性格や性別によって嗅ぎ方が違う

 神経質な性格のオス猫は、異なるチューブを行ったり来たりし、何度も忙しくにおいを嗅ぐ傾向があった。

 その一方で、協調的な性格のオス猫は落ち着いてにおいを嗅いでおり、チューブに近づく回数はより少ない傾向が見られたという。

 またメス猫の場合は、性格による嗅ぎ方の違いは見られなかったそうだ。この理由ははっきりしておらず、さらに調査を進める必要があるだろう。

本当に飼い主をにおいだけで識別しているのか?

 他の多くの生き物たちと同じように、猫にとってもにおいは、生きていく上で非常に重要な意味を持っている。

 においによって危険を察知し、食べ物を見つけ、パートナーを探し、縄張りを確認し、仲間とのコミュニケーションをとっているわけだ。

 では、猫にとって飼い主のにおいは何を意味するのだろうか。

 これまでに行われて来た研究で、猫は飼い主の声を認識している[https://link.springer.com/article/10.1007/S10071-013-0620-4]ことは判明していた。さらに、猫は人間の感情をにおいで識別できる[https://www.nature.com/articles/s41598-023-38167-w]らしいこともわかっている。

 今回の研究では、猫が馴染みのあるにおいとそうでなにおいでは異なる反応を示す、つまり猫がにおいで人間を識別している可能性が示唆された。

 だが飼い主とそうでない身近な人、例えば飼い主の友人や別居している家族などをにおいで区別できるのかどうかまでは、明らかになったとは言えない。

 論文の共著書である東京農業大学の内山秀彦博士は、次のように語っている。

この研究で使用されたにおいによる刺激は、猫が知っている人物と知らない人物(1名ずつ)のものでした。

今後は猫が知っている複数の人物のにおいによる刺激を与える行動実験が必要であり、飼い主のにおいにのみ反応する、特定の行動パターンを見つける必要があります

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 犬は飼い主のにおいを嗅ぐと、安心したりリラックスしたりするのはよく知られている。だが猫の場合は、逆に落ち着かない[https://sippo.asahi.com/article/15090533]気分になったりするらしい。

 猫にとってはにおいだけでは安心できず、物理的に飼い主本人がそこにいないと、不安が軽減されることはないんだそうだ。

 においと本人、この2つがセットになっていること。これが猫にとって重要なのは、猫飼いにとっては自明の理なのかもしれない。

 みんなのところの飼い猫は、飼い主であるみんなをにおいで識別していると確信する瞬間があるだろうか。

 それとも声や外見、その他の情報から、自分を飼い主であると認知してくれているのだろうか。

References: Cats recognize their owner’s scent, study suggests[https://doi.org/10.1371/journal.pone.0324016] / Study Reveals How Your Cat Remembers Who You Are[https://www.sciencealert.com/study-reveals-how-your-cat-remembers-who-you-are] / Cats Can Recognize Their Owners by Smell Alone[https://neurosciencenews.com/cat-olfaction-owner-29149/]

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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