絶滅寸前の飛べないオウム「カカポ」を救え!特殊な人工授精法でヒナが誕生
Photo by:iStock カカポ(フクロウオウム)

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 約400種が確認されるオウムの中で、唯一飛ぶことができないニュージーランドの固有種「カカポ」は、絶滅の危機に瀕しており、確認されている個体数は百数十羽程度だ。

 この希少な鳥を救うため、ドイツとニュージーランドの研究チームが協力し、電気刺激とマッサージを組み合わせた新しい人工授精の技術に挑戦した。

 その結果、受精率は大幅に向上し、人工授精によって4羽のヒナが誕生したことが確認された。もしかしたら、カカポを救うことができるかもしれない。

この研究は『PLOS One[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0322276]』(2025年6月6日付)に掲載された。

飛べないオウム「カカポ」とは?

 カカポ(フクロオウム)は、ニュージーランドにのみ生息する夜行性のオウムの仲間で、学名はStrigops habroptilus。体長は約60cm、体重は3~4kgほどで、世界最重のオウムである。

 「カカポ」とはマオリ(Maori)語で「夜のオウム」を意味する。

 草食性で木の実や葉、芽、種子などを食べる。体の色は緑がかった黄緑色で、苔むした森の中では見事にカモフラージュされる。

 羽はあるものの、飛ぶために必要な筋肉が弱く、体も重いため、空を飛ぶことができない唯一のオウムだ。

 その代わりに足の力が強く、森の中を歩いたり、木に登ったりするのが得意だ。

 寿命はとても長く、90年生きることもある。

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繁殖は不定期、数年に1度

 カカポの繁殖は不定期で、ニュージーランドの固有種、マツ科の樹木「リムノキ (Dacrydium cupressinum)」の実が豊作となる年に限って行われる。

 これは自然界でもまれな特徴で、数年に一度しか子育てのチャンスが訪れない。

 繁殖期になると、オスはそれぞれの縄張りにすり鉢状のくぼみを掘り、そこに向かって低く響く鳴き声を繰り返し発する。

 この音はくぼみによって増幅され、谷全体にこだましてメスに届く。こうした求愛行動は「レック」と呼ばれ、オウムの仲間ではカカポだけが行う特異なものだ。

 この繁殖スタイルでは、オスとメスはつがいにならず、交尾のあともオスは子育てに関与しない。

 オスが複数のメスと交尾することもある一方で、多くのオスはまったく選ばれないまま繁殖期を終えることもある。

 静かな森の中で、ただひたすら声を響かせるオスたちの姿には、ちょっと切ないものがある。

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ヨーロッパ人の入植以降、減少の一途をたどる

 このようにユニークなカカポだが、9世紀以降にポリネシア人やヨーロッパ人がやってきてからというもの、減少の一途を辿ってきた。

 彼らに伴ってネコ・イタチ・ネズミといった捕食動物たちが侵入してきたことにくわえ、牧場開発のために生息地が破壊されたからだ。

 現在では絶滅の危機に直面しており、国際自然保護連合のレッドリストでは「絶滅寸前」に分類されるほど、危険な状況にある。

 これに対し保全活動家たちは、カカポを危険な捕食者のいない近隣の島々へ移住させ、2009年からは人工授精にも取り組んできた。

 その甲斐あって、2019年までにどうにか142羽にまで増えたものの、受精率の低さや胚の死亡率の高さゆえに思ったように数を増やせないでいるのが現状だ。

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新技術の人工授精法で受精率が倍増、ヒナが誕生

 そこで今回、ドイツのギーセン大学、ニュージーランドの環境保全省、カカポ復活プロジェクト、オタゴ大学による国際共同研究チームは、それまでの人工授精をさらに一歩進め、新たな精子採取法を導入した。

 オスから精子を集める方法に工夫を凝らすことにした。

 それはオスの腹部をマッサージするとともに、電気による刺激も併用するというもの。

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 この方法でオス20羽から精液を採取し、メス12羽を人工的に授精させたところ、受精率がこれまでの29.4%から70%にまで上昇。4羽の元気なヒナも生まれてきた。

 研究チームは、今回の手法がカカポの保全活動において有効であると評価しており、今後の繁殖期にも再度この技術を使用する予定だ。

 人工授精による成果が拡大すれば、種の存続に大きく貢献することが期待される。

References: Semen collection, semen analysis and artificial insemination in the kākāpō (Strigops habroptilus) to support its conservation[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0322276] / Using artificial insemination to save an endangered parrot in New Zealand[https://phys.org/news/2025-05-artificial-insemination-endangered-parrot-zealand.html]

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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