野生のサイの角を切る施策を行ったところ、密猟が激減、多くの命を救う結果に

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 アフリカのサバンナに生きるサイたちは、長年にわたり密猟者の脅威にさらされてきた。その主な理由は、サイの角が高値で取引されるためである。

 角はケラチンという物質でできており、人間の髪や爪と同じ成分であるにもかかわらず、伝統的な薬やステータスシンボルとしての需要が絶えない。

 このような状況の中、サイの角を切除する「除角」という手法が非常に有効であることが、南アフリカの研究者の調査で明らかとなった。

 クロサイとシロサイが暮らす11の自然保護区で、角を切られたサイに対する密猟が平均で78%も減ったという

密猟によりサイが絶滅の危機に

 2025年6月5日、『[https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado7490]Science Advances[https://doi.org/10.1126/science.ado7490]』誌に掲載された研究によると、南アフリカの11の自然保護区で実施されたクロサイとシロサイの除角により、サイの密猟が平均78%減少したことが明らかになった。

 この研究は、南アフリカのグレーター・クルーガー環境保護財団(GKEPF)傘下にある保護区の管理者と、ネルソン・マンデラ大学、オックスフォード大学等の科学者などによる共同プロジェクトである。

 論文の筆頭著者で、ネルソン・マンデラ大学の准教授で生物多様性を研究しているティム・カイパー博士は、次のように説明する。

私たちは7年間にわたって、11のグレーター・クルーガー保護区で、1,985頭のサイの密猟を記録しました。これはサイの年間個体数の約6.5%にあたります

 アジア圏ではサイの角は「犀角(さいかく)」と呼ばれ、漢方薬の材料になる。万病に効くと信じられており、中国や東南アジアを中心に、いまだに大きな需要があるのだそうだ。

 もちろん科学的な根拠などないのだが、ブラックマーケットでは金よりも高値で取引されている。

 そのせいで今も1日あたり3頭のサイが、密猟者に殺されているという。クルーガー国立公園だけでも、2~3日に1頭のペースだという。

 このまま放置していると、20年後には地球上からサイがいなくなってしまうと言われているほど深刻な状況だ。

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「除角」が密猟防止に高い効果

 そこで密猟者の目的であるサイの角を切除して、密猟者に狙われないようにしようという手法が考案された。

 彼らの目的は角そのものなので、角のないサイが標的にされるリスクは低くなるからだ。

 実際に8つの保護区で2,284頭のサイの角を切除したところ、サイの保護にかける予算全体のわずか1.2%の費用で、密猟を78%削減できたのだ。

 この方法は、ヘリコプターを使った巡回や監視カメラの設置といった高額な対策に比べて、コストパフォーマンスに優れているのがポイントだ。 

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除角の方法とサイへの影響

 除角は通常、次のような手順で行われる。まずヘリコプターから麻酔銃でサイを撃って眠らせ、目と耳を覆ってから角にペンで印をつける。

 そしてチェーンソーやのこぎりを使って、角の9割を除去するのだ。この方法だと、苦痛を与えることなく、除角ができるのだそうだ。

 密猟者の目的である角自体がなくなってしまうので、命を奪われる心配はかなり低くなると言えるだろう。

 とは言え、除角にはいくつかの課題も存在する。サイの角は縄張りを守ったり、餌を探したりなど、実はさまざまな使われ方をしているという。

 これまでのところ、除角を行ったサイの健康や行動に大きな変化はないそうだが、それでも完全に安全な処置とは言い切れないのだ。

 さらに前述の通り、除角されるのは角全体の9割程度。残りの1割の角を狙って、密猟者に襲われた個体もいるという。

 現に除角をした111頭のサイが、残った根っこの部分を目当てにした密猟者に殺されたのだそうだ。

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サイの角は一度切っても伸びてくる

 また、他の多くの動物たちと違って、サイの角は骨ではなく、ケラチンを主成分としている。つまり髪の毛や爪と同じようなものであり、一度切っても伸びてくるのだ。

 放っておけば1年間に7cm伸びるそうなので、1年半~2年ごとに除角を行う必要があるという。

 つまり除角は、一時的に密猟者のターゲットになることを防げるかもしれないが、根本的な解決策にはならないのだ。

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根本的な解決には社会を変える必要がある

 繰り返しになるが、除角は密猟に対する効果的な手段ではあるが、根本的な解決策ではない。

 クイパー博士は、将来的な密猟根絶にはより包括的な対応が必要だという。

 角への需要を減らす啓発活動、貧困や経済格差の是正、汚職対策、そして密猟を支える国際的な犯罪ネットワークの解体などだ。

 博士が特に危惧するのは、刑事司法制度の腐敗と、保護に携わるスタッフと犯罪組織の癒着だ。密猟者をいくら捕まえてもすぐに釈放されてしまい、密猟の蔓延を助長しているのだ。

短期的な対策として除角が効果的であるのはわかりましたが、長期的に見た場合、やはり密猟の根本的な原因に対処する必要があるのです

 現在、サイはアフリカ・インド・東南アジアに4属5種が存在しているが、そのすべてが絶滅の危機に瀕している。

 特に東南アジアに生息するジャワサイは激減しており、既にベトナムでは絶滅。その他の国を合わせても、2020年の調査でわずか74頭が確認されたのみだという。

 最初に除角を始めたのはナミビアだった。

今は南アフリカだけでなく、ボツワナやジンバブエなどサイが生息している国々で行われるようになっている。

 サイの密猟をなくしていくためにも、今後も除角に取り組んで、密猟者たちに「角がないから捕まえても無駄」だと知らせる努力が必要だ。

 そして同時に、犀角には病気を治す効果などないことを、薬効を求めるアジアの国々に周知していかなければならないだろう。

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References: Dehorning Rhinos Cuts Poaching by 78% – Saving Thousands of Animals' Lives[https://www.sciencealert.com/dehorning-rhinos-cuts-poaching-by-78-saving-thousands-of-animals-lives] / Dehorning reduces rhino poaching[https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado7490]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。

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