あまり知られていないオルドビス紀の大量絶滅の謎、85%の種が絶滅
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 約4億4400万年前、オルドビス末期の大量絶滅はペルム紀末の大量絶滅に次ぐ大規模なもので、85%の種が絶滅した。

 これまで地球上には5回の大量絶滅が発生した。

一番有名なのは恐竜たちを消し去った白亜紀末(K-Pg境界)のもので、オルドビス末期の大量絶滅(O-S境界)についての事実は意外と知られていない。

 それはいったいなぜなのか?古生物好きなカラパイアの読者なら学んでおくべきかもしれない。

 英国・自然史博物館のリチャード・トゥイチェット氏が解説した内容をもとに、過去にタイムスリップし、オルドビス末期の大量絶滅に関する事実を見ていこう。

オルドビス紀の海は進化の実験場のようだった

 自然史博物館のトゥイチェット氏は、「オルドビス紀はまるで異世界でした」と語っている。

 彼によると、今から4億8500万~4億4400万年前、現在の地上で見ることができるような動物たちは一切存在しなかった。

 それどころか草木や花といった植物さえ存在しない。もしも地上で緑らしきものがあったとすれば、せいぜい藻類だったろうという。

 オルドビス紀の生命のメインステージは地上ではなく、海だったのだ。海の中をのぞいてみれば、そこには奇妙奇天烈な生き物たちがひしめいていた。

 そこは進化の実験場のようなところだった。海の生き物たちは、かつてないほどの速さで変化し、多様化を遂げようとしていた。

 そうした痕跡は化石にも残されており、当時の生命による進化の狂乱の宴は「オルドビス紀の生物大放散事変」として知られている。

この時期は本当に、進化がさまざまな実験をしていた時代でした(トゥイチェット氏)

 ちょうどガラパゴス諸島にたどり着いた最初のフィンチのように、当時の海に彼らの邪魔をするものはなく、海の環境をのびのびと使うことができた。

 そのおかげで、彼らの体の作りはどんどん洗練され、複雑になっていった。今でも見ることができるヒトデ・ウニ・サンゴといった動物が登場したのは、この頃のことだ。

 また生物の食生活にも大きな変化が起きている。

 オルドビス紀以前、地球の海の生き物たちは、海底に溜まった沈殿物などを食べて生きていたが、やがて水中を漂う粒子をろ過して食べる濾過摂食者が登場した。

 海底ならば腕足動物、その少し上にはサンゴやコケムシ、海面近くはウミユリといった具合だ。

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寒冷化と温暖化のダブルパンチによる大量絶滅

 だがそうした春にもついに終わりが訪れることになる。それは恐竜を絶滅させた小惑星の衝突のようなドラマチックなものではない。

 むしろ2段階の「ダブルパンチ」だった。すなわち、まず地球は寒冷化し、それから温暖化した。

 現在では、この出来事は2段階のイベントとして理解されているという。

 じつはこれがO-S境界に起きた大量絶滅の最初のユニークなところだ。

 ビッグファイブと呼ばれる大量絶滅の多くは、気候変動に関係したものだ。

 だが、そのいずれも生物を消し去ったのが温暖化だったのに対し、オルドビス紀末期のそれは寒冷化が最初の一撃だった。

 皮肉なことに、寒冷化の引き金は生命そのものであった可能性がある。

 当時、地上に植物はほとんど進出していなかったが、それでもオルドビス紀の終わり頃には、コケ類が地上で慎ましく生きていた。

 すると、そのせいで岩場に風化や侵食が起こり、土壌が形成された。それが大気中の二酸化炭素の吸収をうながすようになったのである。

 これにくわえて、地質学的な偶然もあった可能性があると、トゥイチェット氏は説明する。

 当時存在した唯一の大陸「ゴンドワナ超大陸」は、その頃南極へと進路を向けていた。その影響で、大陸をおおう雪や氷の面積が広がっていった。

 真っ白な雪や氷は、黒っぽい地面に比べて太陽の光をたくさん反射する。

 すると気温が下がり、それがさらに白い面積を拡大させるという寒冷化のループが始まるのである。

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 そうした地球の寒冷化もやがて和らぐが、生物がほっと息を吐くまもなく、往復ビンタのような激変が彼らに襲いかかった。急激な温暖化である。

 しかもそれだけではない。

どうも突然の暑さに見舞われた生物たちは、酸欠にも苦しんだようだ。化石の調査によるなら、この時期の海は異常なほど酸素が不足していたようなのだ。

 トゥイチェット氏によれば、その原因ははっきりしないという。

 温暖化で藻類が大量に発生し、水中の酸素を消費してしまったのかもしれない。あるいは、火山が活発になり、酸素を吸収する鉱物が海に大量に流れ込んだのかもしれない。

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生態系への影響は意外と低かった

 いずれにせよ、オルドビス紀の大量絶滅では、種の85%、属の60%が地球から消え去った。

 種であれ属であれ、絶滅した数で言うなら、2億年後に起きるペルム紀末の大量絶滅に次ぐ大惨事だった。にもかかわらずあまり話題に上がらない。

 その理由は、地球の生態系に対する影響という点では、それほど深刻なものではなかったからだ。

 生態系の主要な機能を担うグループは残り、地球全体に与えた影響は比較的小さかったのである。

 たとえば白亜紀末の絶滅は、ビッグファイブの中では絶滅した種の数は低い。にもかかわらず、そのインパクトは圧倒的に大きかった。

 恐竜が絶滅したことで、彼らが陸上で占めていた生態系がまるごと消えてしまったからだ。

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なぜオルドビス紀末の大量絶滅は話題にあがらないのか?

 一方、オルドビス紀末の大量絶滅は、その正反対だった。

 たくさんの種が消え去ったが、それでも分類群そのものが消えることはなく、彼らが占めていた生態系は残された。

 世界はまもなく、ほぼ元の状態に戻った。これもまた、オルドビス紀の大量絶滅がビッグファイブのほかのものと一線を画している点だ。

 こうして大量絶滅を経験した分類群の多くは地上から消えることなく、現代にまで生き残り続けた。

 オルドビス紀末の大量絶滅はある意味きわめてユニークだ。にもかからわず、現代人はあまりこの事実を知らない。

 トゥイチェット氏によるなら、結局のところ記憶に残るスター選手がいなかったことが原因であるようだ。

白亜紀末の絶滅が有名なのは、地上の大きくて恐ろしい恐竜がいなくなったからです。微小な有孔虫の絶滅くらいじゃ、もし当時ネットニュースがあれば、見出しにもならないですよ(トゥイチェット氏)

References: The Ordovician Mass Extinction Killed 85 Percent Of Life On Earth In A Totally Unique Way[https://www.iflscience.com/the-ordovician-mass-extinction-killed-85-percent-of-life-on-earth-in-a-totally-unique-way-79349]

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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