
アメリカ食品医薬品局(FDA)は2025年5月、研究室で培養されたサーモンを、一般消費者向けの食品として初めて承認した。
これまで、アメリカでは培養鶏肉がすでに承認されているが、魚類では今回が初の事例となる。
このサーモンを開発したのは、サンフランシスコのスタートアップ企業「ワイルドタイプ(Wildtype)」で、刺身や寿司ネタとして生食できるよう、最初からさく切りに仕上げられている。
FDAが初めて培養サーモンを食品として承認
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、2025年5月28日、研究室で培養されたサーモン(鮭:サケ)を人が食べる食品として承認したと発表した。
この魚を開発したのは、サンフランシスコに拠点を置くスタートアップ企業「ワイルドタイプ(Wildtype)[https://www.wildtypefoods.com/]」社で、同社は公式発表の中で、「FDAと事前の安全性協議を完了した」とし、FDAからの返信文書[https://www.hfpappexternal.fda.gov/scripts/fdcc/index.cfm?set=AnimalCellCultureFoods&id=005]も併せて公開した。
FDAの食品プログラム・化学的食品安全・栄養補助食品・イノベーション担当部門の責任者は、「ワイルドタイプ社の培養サーモン細胞素材について現時点での懸念はない」と述べ、「同様の方法で生産された他の食品と同等の安全性が確認された」と評価している。
このようなFDAとの安全性協議は企業に義務付けられたものではなく任意のプロセスだが、消費者の信頼を得るうえで重要な意味を持っている。
生食の刺身用を目指した研究開発
ワイルドタイプ社が目指したのは、単なるサーモンの代替品ではなく、生で安心して食べられる高品質な食材の実現だ。
同社が開発したのは、刺身や寿司に使われる柵状(さくじょう)の四角い切り身で、日本でも刺身や寿司に用いられるものだ。加熱を必要とせず、生で提供する前提で作られている。
この培養サーモンは、アメリカ・ワシントン州にある孵化場で育てられたギンザケ(Oncorhynchus kisutch)の稚魚から、ごく少量の細胞を採取して開発された。
採取されたのは、魚体を構成する基本的な真核細胞で、主に筋肉など食用部分を形成する系統の細胞とされている。
この細胞から安定した細胞株を樹立し、研究室内で自然環境に近いpHや水温、栄養分が調整された培養液の中で育成。十分に成長した段階で回収される。
細胞の採取は初回の一度きりで、それ以降は同じ細胞株を繰り返し培養しているため、サーモンを犠牲にする必要はない。こうした点からも、持続可能な食資源として注目されている。
その後、植物由来の成分を少量加えることで、天然のサーモンに近い味わいや食感、色合いが再現されている。
ポートランドのレストランで提供開始
この培養サーモンは、2025年5月下旬にオレゴン州ポートランドにある高級ハイチ料理レストラン「カン(Kann)」で提供が始まった。
同店は米国の料理界のアカデミー賞とも言われる「ジェームズ・ビアード賞」を受賞したシェフ、グレゴリー・グーデット氏が運営している。
培養サーモンは、スパイスを効かせた角切りのトマトとイチゴ、エピス(ハイチの伝統的なニンニク、唐辛子、ハーブを混ぜ合わせたペストのようなソース)を添えたライスクラッカーと一緒に提供されている。
カンではこの培養サーモンを、7月から正式に日常メニューに加える予定となっている。
さらに今後数か月以内には、他の4つのレストランでも提供が始まる見通しだ。
ただし、次に導入される店舗の名前はまだ公表されておらず、すでに培養肉の提供を禁じている8つの州にあるレストランでは、展開が見送られる可能性が高い。
アメリカの一部の州では、こうした培養食品の提供に対し制限を設けているが、その背景には安全性や栄養面での懸念ではなく、既存の畜産・漁業への経済的な配慮があるとされている。
もっとも、現時点では培養肉や培養魚の生産コストは依然として高く、大規模な普及にはなお時間を要する。従来の食肉産業にすぐ取って代わる状況にはないというのが現実だ。
References: FDA clears Wildtype’s cell-cultivated salmon for US debut[https://agfundernews.com/fda-clears-wildtypes-cell-cultivated-salmon-for-us-debut] / Wildtypefoods[https://www.wildtypefoods.com/our-salmon]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。