
オーストラリアに生息している「キバタン」と呼ばれているオウムは社会性が高く、とても知能が高いことで知られている。
キバタンは人間の居住するエリアでの生活に見事に適応し、鳥避けシートをはがしまくって地面に捨てたり、ゴミ箱の開け方を覚えると仲間が次々とそれを真似、ちょっとしたゴミ漁りブームを作るなど、賢いだけにやっかいな一面もある。
そんなキバタンだが、今度は公園の水飲み場で、人間用の蛇口をひねって水を飲むことを覚えちゃったらしい。
キバタンたちが次々に公園に訪れ、水を飲んでいる姿が確認された。
蛇口から水を出して飲むキバタンたち
2025年6月4日付のイギリスの学術誌『Biology Letters[https://royalsocietypublishing.org/journal/rsbl]』に、ドイツとオーストリア、さらにオーストラリアの生物学者たちによる共同研究論文が掲載された。
そのテーマは「キバタンの都市部における新たな飲水方法[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2025.0010]」というものだ。
人間の生活圏における水道設備が、いかにして野生動物であるキバタンの行動にイノベーションを起こしたか、そしていかにして集団内に拡散していったかを観察した研究報告である。
調査はシドニー西部にある公園で行われた。
水飲み場に設置された、カメラの映像には、キバタンが代わる代わる水飲み場に訪れ、器用に足で蛇口をひねり、水を飲んでいる様子が映し出されている。
水を出し続けるためにバルブを固定することも学習
映像ではちょっとわかりにくいが、この水飲み場にはゴム製の青い蛇口と、丸いバルブがついている。
水道には一定の圧力がかかるように設計されており、水を出し続けるためにはバルブをひねった後で押さえ続けなければならない。
人間なら簡単な構造だが、鳥にとっては、まずどうしたら水を出し続けることができるのかを理解しなくてはならない。
だがここのキバタンたちは、足でバルブを回して固定し続けることを学習し、飲みたい時に飲みたいだけ水を飲むことができている。
論文の筆頭著者で、ドイツのマックス・プランク動物行動研究所で行動生態学を研究していたバーバラ・クランプ博士(現ウィーン大学)は、キバタンが水を飲む様子をこのように説明する。
これらの観察から明らかになったのは、キバタンは水の出し方を理解し、両足を使って器用に操作していたということでした。
キバタンは片足(多くの場合は右足)をバルブに置き、もう一方の足でゴム製の注ぎ口をつかむか、両足ともバルブに置いていました。
その後、体重をかけてバルブを時計回りに回し、元に戻らないように押さえつつ、頭をひねって流水に口を近づけていたのです
仲間から仲間へと伝わっていた
クランプ博士がキバタンのこの行動に着目したのは、2018年の調査中に訪れた西シドニーの公園で、水飲み場に群がるキバタンたちを見たのがきっかけだった。
最初は蛇口の栓がひらっきっぱなしになっているのかと思ったのだが、実はキバタンたちが自分の足でバルブを回し、水を出して飲んでいたのだ。
そこで博士らは、2019年6月に調査を開始。水飲み場にモーションカメラを設置して、キバタンたちの行動を観察・記録することにした。
博士らは24羽の「常連」のキバタンたちをマーキングし、8月から44日間にわたって彼らの水飲み場での行動を記録した結果、次のようなことが判明した。
この期間中に、常連とそれ以外のキバタンたちは合計で525回水飲み場に近づき、41%の成功率で水を飲むことができた。ただし、マーキングされた常連の24羽の成功率は51%に達したという。
公共の水飲み場は、自治体によってデザインが異なるものの、水を出す操作方法はほとんど同じです。しかし私たちの知る限り、キバタンたちのこのような行動は他の場所では観察されていません。
この地域の特に賢いキバタンが最初に水の出し方を覚え、それを見た親しい仲間たちが次々と見て学んでいったと考えられます。この行動は都市部で生きるための適応として広がりつつあります。
キバタンたちが水を飲みに訪れるのは、朝7時半と夕方5時半ごろが多く、特に夕方にはピークを迎えたという。
地域の仲間同士でスキルの伝搬が行われていた
2022年、同じシドニー郊外で、キバタンがゴミ箱の蓋を開けることを学習してしまうという事案が発生しいる。
実はこの時もクランプ博士が調査を行っているのだが、今回と同様にふたを開けるという「文化」がキバタンたちの間で伝搬したと推測されている。
今回、私たちは野生のオウムにおける新しい飲水行動を確認しました。これまで知られている中で初めての事例です。
この行動は両足とクチバシ、さらに体重移動を組み合わせて水の流れを開始するという、一連の動作の組み合わせで構成される複雑なものです。
簡単な操作ではないため、マーキングした鳥の成功率は52%だったという今回の調査結果に反映されている可能性があります。
これは以前行われた、キバタンによるゴミ箱の蓋開け行動に関する研究と興味深い類似点があります。その研究でもマーキングされた鳥による成功率は54%であり、いずれの行動も知能と器用さが要求されるといった点で類似性があります
ゴミ箱の蓋開けと蛇口の操作に共通しているのは、両方とも学習と訓点によって身につけ、地域個体の間で伝搬していくスキルであるという点である。
つまりキバタンたちは、お互いの行動を観察し、試行錯誤を繰り返すことで、こういったスキルを「社会的に」習得している可能性があるということだ。
また、どちらの成功率も約半分ということは、キバタンたちの身体能力や空間認識能力をもってすれば、2回に1回は成功するということを意味している。
成功すれば餌にありつけたり水が飲めたりするので、50:50なら挑戦する価値は十分にあり、そこにスキル習得へのモチベーションが働いているのかもしれない。
研究チームの一員ジョン・マーティン博士は、次のように語っている。
今回の研究結果は、野生のキバタンが都市部に住むことで生じる課題に、行動をうまく適応させていることを示しています。
オウムは特に高い革新性と問題解決能力を持っており、目新しいものに惹かれることがわかっています。
この研究は、このような飲水行動に関する確信が学習され、地域の鳥たちの間で広まり、新たな年適応型の伝統を形成できることを示しています
今のところ、このような飲水行動は他の地域の個体群では見られないそうだ。
日本の猿で類似例
日本の宮崎県幸島の猿たちが芋を洗って食べるという「文化」は、代々受け継がれてきているものだが、他の群れに広がることはなかったという。
キバタンたちの蛇口をひねって水を飲む「文化」は、今後広く拡散していくのだろうか。それともこの地域の個体だけに留まるのだろうか。
References: Watch: Trashcan-opening birds have now learned to turn on taps to drink[https://newatlas.com/biology/cockatoos-adaptation-taps/]
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。