
ブラックホールの一部はワームホールであるというSF的な仮説に科学的な根拠が加わりつつある。
イタリアの研究チームは、ブラックホールが外部から影響を受けたときに時空に生じる揺らぎを解析し、ワームホールとの違いを探った。
その結果、両者は非常によく似た振る舞いを示すことが分かり、観測データだけでは区別がつかない可能性があることが明らかになった。
ワームホールはどこにあるのか?
いわば時空のトンネルともいうべき「ワームホール」は、現時点においては完全に仮説上の存在である。
これに関する理論を最初に提唱した1人は、意外にも20世紀最高の物理学者アルベルト・アインシュタインだ。
彼とネイサン・ローゼンが提唱した時空構造モデルは、ある種の物質とエネルギー条件下での時空の幾何学を記述したもので、現在では「アインシュタイン=ローゼン橋」と知られている。
このモデルは「負のエネルギー」という架空の概念に依存しており、あくまで数学的な構造にとどまるものだ。
だが、もしもワームホールが本当に存在するのだとしたら、どこにあるのか?
一部の研究者は、この宇宙においてもっとも極端な時空構造であるブラックホールこそがその正体ではないかと考えている研究者もいる。
ワームホールとブラックホールは見た目の区別がつかない
今回、イタリアのナポリ大学をはじめとするチームの研究もまた、ブラックホールがワームホールの正体である可能性を検証したものだ。
だがその解析は、「シュヴァルツシルト・ブラックホール[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AF%E3%83%AB%E3%83%84%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB]」という回転せず、電荷も持たない、静的で理想化された架空のブラックホールをモデルにしている。
シュヴァルツシルト・ブラックホールが擾乱(じょうらん)を受けた時、時空に現れる振動がどのように減衰(準正規モード)するのか解析した。
その結果、ワームホールの振動の減衰は、静的ブラックホールのそれと同じようになることがわかったのだ。すなわち、仮にブラックホールがワームホールだったとしても、外からは見分けがつかない可能性があるということだ。
これについて論文では次のように説明されている。
一般相対性理論の予測を超える、あるいは一般相対性理論として普通ではない前提に基づく“エキゾチックなコンパクト天体”は理論的には存在し得るが、いまだに観測されていない
こうした天体が検出困難なのは、ブラックホールを観測した際に見られる特徴を極めて巧妙に模倣できるからかもしれない
ブラックホールの一部はワームホールかもしれない
ブラックホールの一部がワームホールである可能性は、何十年にもわたって議論されてきた。
たとえば、2021年の研究では、ワームホールはブラックホールの中に隠されており、それが量子力学と一般相対性理論をつなぐ鍵であると主張している。
今回の研究は、静的ブラックホールにおける時空の振動の減衰という観点から、ブラックホールとワームホールの類似を示したものだ。
著者らは今後、パラメータの精度を高めて理論を発展させ、ワームホールとブラックホール双方に現れると考えられる「極方向の重力擾乱」の解析に取り組む予定であるそうだ。
この研究は『Physical Review D』に掲載される予定だ。その未査読版は『arXiv[https://arxiv.org/pdf/2502.12646]』(2025年2月25日投稿)で公開されている。
References: Some Black Holes May Be Portals Through Spacetime In Disguise[https://www.popularmechanics.com/space/deep-space/a64960064/black-hole-portals/]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。