
2025年6月13日、アラブ首長国連邦(UAE)に属するドバイの高層ビルで、大規模な火災が発生した。火は6時間にわたって燃え続け、4,000人近い居住者が避難を余儀なくされた。
火は収まったものの、居住者はいまだに自宅に戻ることができず、避難所での借りぐらしを余儀なくされているという。
高層マンションを襲った突然の火災
火災が発生したのは、マリーナ地区にある67階建ての「マリーナ・ピナクル(Marina Pinnacle)という、日本でいうところのタワマンである。
通称「タイガータワー」と呼ばれるこの高層住宅の部屋数は764戸で、約3,820人の住人が居住している。
13日の夜21:30頃、突然このビルの上層階から煙が噴き出し、炎がビルの外装パネルに沿って燃え広がった。
金曜の夜、自宅で寛いでいた住人たちは、突然の事態に着の身着のままで避難することを余儀なくされた。当時の状況を、住人たちは次のように語っている。
- 刺激臭のする煙の臭いが部屋に入って来て目が覚めました。ルームメイトが私を呼ぶ声が聞こえたので、パジャマのまま急いで建物から降りました。見上げると、おそらく60階より上から濃い煙が噴き出ているのが見えました
- 私は妻と24階にいたのですが、配線が焦げているような臭いがしました。キッチンを含め、部屋中を調べましたが何も見つかりませんでした。それで外に出ると、階段には既に煙が充満しており、仕方なくエレベーターで逃げたんです。エレベーターが動いていて本当に助かりました。妻は煙で意識がもうろうとしていました
- 隣の建物から、誰かが叫んで火事だと知らせてくれたので、息子を抱えて手探りで階段を降りたんです
- 最初は(火がまだ)小さかったんです。
62階から出ている思ったので確認に行ったのですが、実は私の家のすぐ上の階からだと気づきました。消火器や消火ホースを試しましたが、あまりにも火勢が強く、消防隊が到着したので階段を駆け下りました- 火災警報は鳴っていませんでした。私は娘と2匹の猫、そして犬を抱きかかえていました。階段に着いた時には、煙が充満していて、本当にパニックになりました
下の動画は、無事を喜び合う入居者の様子。
ドバイ当局の対応は迅速だった。数分以内に警察と救急隊が到着し、全住人を速やかに、安全に避難させた。これだけの火災でありながら、死傷者は報告されていないそうだ。
消防士たちは一晩中炎と闘い、6時間後に鎮火に成功した。その後も再燃に備えて消防士たちは現場に留まり、外壁への放水を続けたという。
市民がオンライン上に支援グループを結成
現場の周辺では、ドバイ・マリーナ駅からパーム・ジュメイラ駅までの間のトラムが一時運航停止になり、代替でバスが運行された。
また、火災直後から市民の間では焼け出された被災者たちへの応援の輪が広がり、ホテルが部屋を提供したり、食事や日用品、衣類などの支援が行われた。
さらに被災者のペットを預かる無料のペットホテルサービスや、女性のための無料の洗髪サービスなどもスタート。
支援活動の多くは、市民らが利用するWhatsApp(LINEのようなメッセージアプリ)を通じて行われた。
WhatsAppグループには、助けを求め、悲嘆に暮れる多くの人々がいます。建物に入り、残してきた持ち物を取り戻し、安全かどうかを確認したいのです。すべてを失った人の数は信じられないほどです
アプリ上では数百人の有志が被災者の要望を直接聞き、食料や衣類、交通手段、衛生用品などを提供している。
また、火災直後は野宿している住人も多かったため、WhatsApp上で避難場所を提供するためのグループも作られた。そのグループでは、例えば以下のようなやり取りが行われていたという。
- 親愛なる友人の皆様、私たちは3人の子供と小さな犬がいる家族で、緊急に滞在できる場所を必要としています
- ドバイヒルズに空いているヴィラがあります。家具はありませんが、電気と水道は利用可能です。1週間滞在できます
市民たちからは多くの支援物資が寄せられている。
再入場が認められたものの内部は悲惨な状況に
17日になって、入居者たちのビルへの再入場が認められたが、焼けなかった階でも放水などによる被害が甚大で、住民たちは改めて悲嘆にくれることとなった。
- 暑い中200人以上が待っていました。私たちはまだ、逃げて来たときの服を着ています。身分証明書も予備の携帯電話もまだ手に入っていません
- パスポートと車の鍵は無事でした。寝室とキッチンは無事でしたが、バルコニーの扉が開いていたため、リビングルームは煙に見舞われてしまいました
- 43階です。
キッチンと廊下は煤で黒くなっていましたが無傷でした。でも寝室は消えてしまいました- 34階ですが、部屋は部分的な破損で済んだものの、廊下は完全に焼失しています
- 私は19回に住んでいますが、リビングルームは完全に破壊されました
- 重いスーツケースを運んだり、許可された時間よりも長く滞在したりと、この機会を悪用する人たちもいます。そのせいですべてが遅れ、待っている人たちに迷惑がかかっているんです
- 自分の部屋以外に入ることはできません。警察はその点非常に厳しかったです
- 40階以上は電気がまったく来ていません。必要なものを集める時間は十分に与えられました
- 我が家は煙による被害はありましたが、深刻なものではありませんでした。他の人たちが経験していることに比べると、私は幸運だったと思います
住人でエジプト人のビジネスコンサルタント、サルマ・シェリフ・エルハウスニーさんは、40階にある自宅の惨状を目の当たりにして、次のように語っている。
主寝室は完全になくなってしまいました。本当に絶望的です。何もかも失ってしまいました。ジュエリーやパソコン、衣服はもちろん、出生証明書や教育証明書、持っていたお金も全部…。すべてここにあったんです。
もっと多くの物を失った人がいるのはわかっていますが、私はドバイに来てまだ一年半で、独りぼっちなんです。ここにあったものが私のすべてでした
荷物を取りにビル内に入った入居者が撮影した映像がこちら。黒焦げになっている様子がわかると思う。
現地では現在、入居者たちが無料でカウンセリングを受けられるよう、メンタルヘルスの専門家たちによる支援もスタートしているそうだ。
また、火災の原因については、当初はタバコの火が原因でないかと言われていたが、電気系統のトラブルという説も浮上している。
今のところまだ原因については判明していないが、火災時に警報が作動しなかったという報告もあったため、この点についても調査が進められているそうだ。
実はこのビルでは、10年前の2015年にも上層階で火災が発生している。ビルを管理する不動産会社は、次のようなメッセージを入居者宛てに送ったという。
建物の評価と修復作業がまだ進行中であるため、安全に居住するには不適格な状態のままです。居住者全員の安全と健康は引き続き最優先事項であり、関係する建物管理者および関係当局からの最新情報を注視しています
建物の安全が確保され、リフォームが終わり、入居者たちが自宅に戻れるのは、まだしばらく先のことになりそうである。
支援を通じてコミュニティの絆が深まる側面も
今回の火災を受けて、専門家は高層マンションの住人たちに次のようなアドバイスをしている。
ドアの近くに身分証明書や携帯の充電器、医薬品、現金、水などの必需品を入れた非常用持ち出しバッグを常備してください
我々日本人にとっては、災害に備えて防災グッズを用意するのは当たり前のようになっているが、世界の多くの場所ではそういった備えを「考えたこともない」人たちも多いのだ。
とはいえ、明るいニュースもある。
そんな中、今回の火災で自然発生的に行われた草の根の支援活動が、ドバイの住民たちの絆と結束を深める結果となったのだ。インド人入居者のニティヤ・プラカールさんは、取材に対し次のように語っている。
皆様の支援活動のおかげで、コミュニティがひとつになりました。本当に素晴らしいことです。
このTシャツ、このバッグ、今食べている食べ物、持っているお金、すべては皆様から与えられたものです。私が今まともな生活を送るために必要なものはすべて、皆様から与えられたのです。皆様のサポートに心から感謝しています