
古代ギリシャ神話の神々や英雄は、現代を生きる我々にとって想像力を掻き立ててくれる存在だ。
そんな神話の世界を彫刻で表現した希少なローマ時代の大理石で作られた石棺が、イスラエルで発見された。
描かれているのは、ワインの神「ディオニューソス」と英雄「ヘラクレス」によるお酒の飲み比べという珍しい場面である。
イスラエル国内でこのような棺が見つかるのは初めてで、古代ローマ文化や死生観に光を当てる貴重な発見となった。
カエサリアで出土したローマ時代の傑作
イスラエル考古学庁(IAA)[https://www.iaa.org.il/en/page_news/page/A-spectacular-and-rare-Roman-sarcophagus-was-uncovered-in-Caesarea]は、イスラエル、カエサリアで発掘を進める中、砂丘の下に半ば埋まった状態の大理石でできた石棺を発見した。
発掘を担当した考古学者ノハル・シャハル氏とシャニ・アミット氏によると、砂を取り払うにつれて精緻な彫刻が徐々に姿を現し、「まるで映画のワンシーンのような瞬間だった」という。
カエサリアは紀元前1世紀、ヘロデ大王によって築かれた港町で、ローマ皇帝アウグストゥスにちなんで名付けられた。
ローマ帝国とビザンティン帝国時代には文化と経済の中心地として栄え、多くの歴史的遺産が今も残されている。
棺に描かれたディオニューソスとヘラクレスの飲み比べバトル
今回見つかった大理石棺は、2~3世紀頃のものと推定されており、IAAの保存研究室で丁寧に修復作業が行われた。
棺の表面には、ギリシャ神話の神ディオニューソスと英雄ヘラクレスがどちらがより多く、強く飲めるかを競う「飲み比べバトル」の場面が彫刻されている。
ディオニューソスとは?
ディオニューソス[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%82%B9]は、ギリシャ神話に登場するワインと豊穣、演劇や酩酊を司る神であり、その祝祭的な性格から多くの芸術作品に描かれてきた。
ローマ神話では「バックス(Bacchus)」とも呼ばれ、豊穣の神リーベル(やエジプト神話のオシリスと結びつけて信仰されることもあった。
もともとディオニューソスは死と再生の象徴とされており、こうした性格がさまざまな文化で受け継がれていった。
ヘラクレスとは?
一方のヘラクレス[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B9](ヘーラクレース)は、ゼウスと人間の女性アルクメネの子として生まれた半神半人の英雄だ。
並外れた怪力と勇気を持ち、ギリシャ神話では「十二の功業」という数々の困難な試練を成し遂げたことで知られている。
棺の彫刻には、ディオニューソスの取り巻きであるメナデス(狂乱の巫女)やサテュロス(半人半獣の精霊)、さらにはヘルメスやパン神、ライオンやトラなどの神話上の存在も登場し、盛大な宴の雰囲気が表現されている。
興味深いのは、ヘラクレスが飲み負けて酔い潰れた姿が描かれている点だ。
シャハル氏は「これは、ローマ人が死を単なる終わりと捉えず、新たな存在への変容や解放と考えていたことを示しているのかもしれない」と語っている。
カエサリア古代都市の新たな広がり
今回の大理石棺は、これまで知られていたカエサリアの城壁の外側で発見された。
このことから、古代都市の規模が従来の想定よりも広かったことがわかる。今後の発掘や研究がさらに進むことで、新たな発見が期待されている。
修復が完了した大理石棺は、2025年6月12日(木)より、テルアビブのエレツ・イスラエル博物館で開催される「古代の饗宴」をテーマにした学会「The Feast」で一般公開されている。
イベントはテルアビブ大学とバル=イラン大学の共催で行われ、古代世界における宴や飲酒文化の象徴性についての講演も予定されている。
イスラエル考古学庁のエリ・エスクシド所長は「この発見はローマ文化における生と死、そして死後の世界観を映す貴重なもの。綿密な修復を経て、イスラエルの文化遺産として多くの方々にご覧いただけることを楽しみにしている」と語っている。
References: A spectacular and rare Roman sarcophagus was uncovered in Caesarea[https://www.iaa.org.il/en/page_news/page/A-spectacular-and-rare-Roman-sarcophagus-was-uncovered-in-Caesarea]
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。