産業廃棄物が異常な速さで岩石に変化している
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 我々人間の産業活動が、地球の地質に想像以上の速さで影響を及ぼしているようだ。

 イングランドの海岸で、製鉄所から排出された産業廃棄物が、わずか数十年で岩に変化していることが確認された。

 もともとはスラグ(溶鉱炉のかす)と呼ばれる産業廃棄物だったが、海水や空気の影響を受けて急速に固まり、本物の岩石になっていた。

 変化にかかった期間は最長でも35年。

 これまで、自然の力で岩になるには数千年から数百万年を要すると考えられていたため、その速さに研究者たちも驚いている。

 この研究『Geology[https://doi.org/10.1130/G52895.1]』(2025年4月10日付)に掲載された。

製鉄・製鋼工場の産業廃棄物が岩石化

 イングランド北西部にある「ダーウェント・ハウ」の沿岸部で、ほんの数十年で形成された岩石が発見された。

 ここはかつて鉄鋼業が盛んだった地で、今でも閉鎖された製鉄・製鋼工場が残されている。

 研究チームは、そうした工場から排出された産業廃棄物の中に、スラグ(鉱滓/製鉄などで出る高温の不純物の塊)の崖のような不規則な構造があることに気がついた。

 興味を引かれた彼らが、13か所からサンプルを採取し、電子顕微鏡やX線回折などで分析してみたところ、カルシウム・鉄・マグネシウム・マンガンなどの活性化学元素が発見された。

 それらが方解石・針鉄鉱・水滑石といった天然のセメント成分を形成し、鉱物を結び付けて岩化を促進していた。

 さらに海水と空気の作用がこのプロセスを大きく後押ししていた。

 こうした環境条件がスラグを通常の堆積物よりもはるかに速く固め、岩に変えていたのだ。

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産業廃棄物が驚異的スピードで自然環境に取り込まれる

 この現象は「急速人為破砕岩サイクル(rapid anthropoclastic rock cycle)」と名付けられた。

 これまで岩石は自然界で、数千年~数百万年という長い年月をかけて形成されるものと考えられていたが、人間の活動によって生じた廃棄物が短期間で岩になる現象は、まったく新しいタイプの岩石形成サイクルといえる。

 今回の調査では、スラグの中に1934年のジョージ5世のコインや1989年以降に製造されたアルミ缶のタブが発見された。

 これらが岩化したスラグの中に取り込まれていたことから、岩化には最長でも35年しかかかっていないことが確認された。

 「産業廃棄物が自然環境に取り込まれ、わずか数十年で岩化していることがわかったのは非常に重要な発見です」と、筆頭著者のグラスゴー大学、アマンダ・オーウェン博士は語っている。

 スラグはもっと速やかに固まった可能性もあるので、岩石化はさらに短時間のうちに起きた可能性もある。

 「これは、人類の活動がどれだけ速く地質記録に影響を与えているかを示すものです」と、共同研究者のジョン・マクドナルド氏は述べている。

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ほかの地域でも同様の岩石化が起きている

 なお同様のプロセスは、スペインのゴロンダチェ海岸でも同様の岩石が見つかっている。

 ただし、岩石形成までの時間かきちんと推定されたのは、今回の事例が初めてだという。

 研究チームは「波の影響を受ける海岸沿いのスラグ堆積地なら、世界中の他の場所でも同じ現象が起きている可能性が高い」としている。

References: Industrial waste is turning to rock in just decades, research reveals[https://www.gla.ac.uk/news/headline_1173682_en.html]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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