
トルコでは、屋外で暮らす猫たちも地域猫として守られている。だからこそ、猫たちは人に対して必要以上に警戒せず、困ったときには自然に助けを求めてくる。
この母猫も、我が子の目に異変を感じ取ると、すぐに行動に出た。「あそこなら助けてくれる」と。
向かった先は動物病院だ。病院ではすぐに子猫を受け入れ治療を開始した。
治療が終わると、玄関先でじっと待っていた母親の元に子猫を渡す。母猫は愛おしそうに子猫に顔を摺り寄せると、再び口にくわえて去っていった。
まさに猫と人の信頼関係のなせる技である。
助けを求めて動物病院へ 子猫をくわえて現れた母猫
トルコ・チョルム県スングルルにある「スングルル・ペット獣医クリニック」に急患が現れた。
1匹の母猫が子猫を口にくわえ、病院までやって来たのである。
病院のスタッフが近づいてよく見てみると、子猫は目の感染症を患っており、母猫が助けを求めていることに気づいた。
スタッフたちは、子猫を思いやる母猫の愛情深さにに心打たれたという。
すぐに治療を開始、母猫は玄関の前でずっと待っていた
獣医たちはこの急患を受け入れ、すぐに治療を開始した。
幸いにも子猫の症状は軽度で、治療は難しいものではなかった。
目の周りを消毒し、炎症止めの注射を打ち、目薬を差して治療は完了した。
我が子を心配する母猫は、その間ずっと病院の玄関の前で待っていた。
治療が終えた子猫を母猫の元に運ぶと、すぐに体を摺り寄せ、再び子猫を口にくわえて立ち去っていった。
母猫はまだ子猫のことが心配だったようで、元居た場所に戻らず、当分は病院に隣接する空地に住むことにしたようだ。
ここなら再び何かあってもすぐに病院に連れていくことができると思ったのだろう。スタッフたちも空地にいる親子の様子を見守っているという。
治療の経過はとても良好で、親子とも元気にしているそうだ。
猫と人が共存するトルコの文化
トルコでは2004年に「動物保護法(Law No. 5199)」が制定され、すべての動物が法的に保護されている。
飼い主のいない猫や犬にもTNR(捕獲→不妊・去勢→予防接種→元の場所に戻す)が施され、自治体が主導して過剰繁殖や病気の防止に努めている。
さらに2021年の法改正により、動物は「モノ」ではなく「生き物」として法的に位置づけられ、虐待には刑事罰が科されるようになった。
街中の公園や建物の前には猫用のシェルターや給餌設備が設けられ、市民も自発的にエサや水を提供している。
動物愛護団体なども法の運用と教育活動に積極的に取り組んでおり、猫たちは「地域の一員」として守られている。
こうした背景があるからこそ、猫と人間の間に信頼関係が築かれ、母猫も迷わず動物病院の扉を叩くことができたのだろう。
「動物が飼い猫か地域猫かは関係ありません。すべての命を大切にし、その健康を守るのが私たちの使命です」と、クリニックのスタッフは語る。