
フランス東部にある教会を修復工事中、設計図にない隠し階段が偶然発見された。掘り進めると、その先にはかつての墓地や石棺、さらには教会以前の宗教施設跡までが眠っていた。
およそ1500年にわたる「聖なる土地」の歴史が層をなして現れたのだ。知られざる教会地下の発掘が、古代から現代へと続く壮大なタイムスリップの入り口となった。
塩害対策の修復工事中、地下へ続く石の階段を発見
フランス東部ブルゴーニュ地方、ディジョンにあるサン・フィリベール教会で、修復工事中に思いがけない発見があった。
1970年代に教会の床に加熱式コンクリート床が設置されたことにより、かつて18~19世紀に塩の貯蔵庫として使われていた際に染み込んだ塩分が熱で膨張し、建物のひび割れなどの損傷が進んでいた。
この塩害を修復するため床の解体工事が行われ、基礎の状態を確認する必要が生じた。その作業中、設計図にない古い石の階段が偶然発見されたのである。
この発見を受け、2025年4月からフランス国立先制考古学研究所(INRAP)による本格的な考古学調査が開始された。
現在も深さ約3mまで掘削が進められており、次々と予想外の発見がもたらされている。
地下に眠っていた石棺や古代墓地
最初に見つかったのは、14~18世紀にかけての棺や埋葬跡だった。
教会の中央廊では東西方向に整然と並べられた棺が見つかり、副葬品はほとんど確認されていない。翼廊では15~16世紀のアーチ型埋葬室も確認された。
さらに深く掘り進めると、教会が建てられる以前、11世紀頃の墓地跡が出土した。
そして最も古い層からは、6~8世紀頃のメロヴィング朝時代の石棺6基が発見された。
メロヴィング朝は5~8世紀に西ヨーロッパで成立したフランク王国最初の王朝であり、初期キリスト教文化の発展に大きな影響を与えた時代である。
また、発見された石棺の中には、ウロコ状の彫刻が施された蓋石も含まれていた。こうした装飾は、この時代の石棺にしばしば見られる意匠の一つである。
さらに、10世紀頃に築かれた初期教会の痕跡も確認されており、「オプス・スピカトゥム」と呼ばれるV字型に石を積んだ壁が発見されている。
聖なる土地に積み重なる歴史の層
今回の発見から、サン・フィリベール教会がより古い宗教施設の跡地に築かれていたことがわかった。
ヨーロッパ各地では、古代ローマの神殿や異教徒の祭祀場跡にキリスト教会が建てられることが珍しくないが、今回の発掘はまさにその好例だ。
時代が移り変わる中で、古い建物や聖地は埋もれ、その上に新たな教会が築かれてきた。
今回明らかになった地下の遺構は、この土地が1500年以上にわたって「聖なる場所」として使われてきた歴史を物語っている。
地域の歴史を未来へ伝える「時のカプセル」へ
これまでの調査で、サン・フィリベール教会の地下には1500年以上にわたる歴史が積み重なっていたことがわかった。
こうした「時間の層」を縦にたどれる発掘例はヨーロッパでも貴重であり、考古学的な価値は高い。
調査は現在も続けられており、とくにメロヴィング朝時代の石棺は、ローマ帝国末期から中世初期への歴史の移行期を知る手がかりになると注目されている。
教会そのものの保存や、発掘成果の展示活用についても今後議論が進められる予定だ。
サン・フィリベール教会は、これまでにも幾度となく修復や再建を重ねてきたが、今回の発見によって単なる宗教施設ではなく、地域の歴史を未来に伝える「時のカプセル」として新たな姿を見せようとしている。
References: Sous les piliers de l’église Saint-Philibert de Dijon[https://www.inrap.fr/sous-les-piliers-de-l-eglise-saint-philibert-de-dijon-cote-d-or-19729#] / A Hidden Staircase in a French Church Just Led Archaeologists Into the Middle Ages[https://www.zmescience.com/science/archaeology/french-church-sarcophagus-archaeology/]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。