中国で発見されたドラゴンマンの正体はデニソワ人だった
デジタルで復元されたドラゴンマンの予想図 / Image credit:<a href="https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ab/Homo_longi_NT.jpg" target="_blank" rel="noreferrer noopener">Nobu Tamura</a> /CC BY-SA 3.0

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 これまで長年謎とされてきた「デニソワ人」の顔立ちが、ついに明らかになった。

 90年前、中国・ハルビンで発見された「ドラゴンマン(旧人類:ホモ・ロンギ)」の頭蓋骨からDNAとタンパク質を採取したところ、デニソワ人のものと一致していたのだ。

 この発見によって、デニソワ人の容姿がついに明らかになり、東アジアにおける人類進化の再評価が進むと期待されている。

 この研究は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu9677]』(2025年6月18日付)と『Cell[https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00627-0?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0092867425006270?showall=true]』(2025年6月18日付)に掲載された。

建設現場の井戸で発見されたドラゴンマン

 「ドラゴンマン(竜人)」の通称で知られる旧人類「ホモ・ロンギ」が発見されたのは偶然によるものだ。

 1933年、中国・黒竜江省ハルビン市で橋の建設に従事していた労働者が、井戸の中からヒトに似た巨大な頭蓋骨を発見。

 彼は当時の政情を鑑み、政府に没収されることを恐れて、それを誰にも伝えることなく隠すことにした。

 彼がその秘密を家族に打ち明けたのは晩年になってのことだ。

 こうして2018年、頭蓋骨は河北地質大学に寄贈され、本格的な学術調査が始まることになった。

 この頭蓋骨は非常に大きく、隆起した眉稜・平坦な顔・広い鼻・下顎の突起の欠如といった特徴があった。また、脳の容積は、現代人の平均すらをも超えていた。

 2021年、これを調べた研究者たちは、こうした特徴と14万6000年以上前という年代から新種の旧人類であると判断し、「ホモ・ロンギ」と命名した

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ドラゴンマンこそがデニソワ人だった

 一方、中国科学院・古脊椎動物古人類研究所の遺伝学者フ・チャオメイ氏らは、ドラゴンマンは「デニソワ人」なのではないかと疑っていた。

 特徴・年代・地理的条件のすべてがデニソワ人のものと一致していたからだ。だが、そう断言するには分子レベルでの証拠が必要だった。

 フ氏は2010年、シベリアのデニソワ洞窟で発見された小指の骨からデニソワ人を特定することに成功した研究者の1人だ。

 デニソワ人は、前期・中期旧石器時代にアジア全域に存在したとされる旧人類で、デニソワ洞窟以外では、チベットや台湾で彼らのものと思われる骨が発見されている。

 これまでの研究で、デニソワ人はネアンデルタール人や現代人と交雑していたことが判明しており、特にメラネシア(パプアニューギニアやフィジーなど、南太平洋に位置する地域)や東南アジアの一部の人たちでは、最大5%ほどがその遺伝子で占められている。

 ところが、それはすべて頭以外の部分から明らかになったことだ。というのも、これまでデニソワ人の頭蓋骨は見つかっていなかったのである。

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DNAとタンパク質分析で判明、ドラゴンマンがデニソワ人

 フ氏らは、ドラゴンマンがデニソワ人であるという遺伝子の証拠を手にれるため、まず骨や臼歯からDNAを抽出使用と試みた。だがそれはことごとく失敗に終わってしまった。

 最後の手段として注目されたのが、ほんの0.3mgだけ残されていた石灰化した歯垢だ。

 そしてこの予測は見事に当たり、母から娘へと伝えられる「ミトコンドリアDNA」だけでなく、それがデニソワ人のものであることを裏付ける特有の遺伝子変異が発見された。

 さらに頭蓋骨の内耳部分から抽出された古いタンパク質の分析から、チベット高原の顎骨やデニソワ洞窟の歯と一致することも判明。

 DNAとタンパク質の双方から、ドラゴンマンがデニソワ人であることが確実となった。

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ついに明かされたデニソワ人の姿

 これが重要なのは、発見から15年目にして、ようやくデニソワ人の顔立ちが分かるようになったためだ。

 分析の結果、デニソワ人はがっしりとした体格で、重厚な眉骨、広い眼窩、平坦な頬、大きな脳容積を持つことがわかった。

 これまでに見つかった臼歯や顎骨から、彼らがかなり大柄でがっしりした体型だったことは推測されていたが、今回の発見でそれが確実になった。

 デニソワ人はシベリアの寒冷地やチベットのような山岳地帯に適応して体つきをしていたのだ。

 ただし、今回の発見によって「ホモ・ロンギ」という名称が適切なものなのか再考が必要になっている。

 「ホモ・ロンギ」という名称をデニソワ人全体に適用すべきという意見がある一方、デニソワ人が交雑を繰り返した結果生まれた近縁種に厳密な分類は不要との意見もあるという。

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 いずれにせよ、今回の発見により、東アジアにおける人類進化の理解が大きく進展する可能性がある。

 これまでは断片的な化石しかなかったデニソワ人だが、今後は頭蓋骨を基準にすることで、東南アジアやオセアニアで発見された系統が曖昧な化石の再評価が進むと考えられる。

 たとえば昨年、「鄖県人(うんけんじん)」と呼ばれる100万年前の謎の人類は、ドラゴンマンと我々ホモ・サピエンスの共通祖先に近いのではないかとの報告があった。

 今回ドラゴンマンの正体がはっきり分かったことで、鄖県人の位置付けもより明確になる可能性がある。

 さらに、台湾・澎湖水道で見つかった顎や、チベット・白石崖溶洞の骨堆積物など、新たなデニソワ人の痕跡にも注目が集まっているとのことだ。

References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu9677] / Cell.com[https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)00627-0?_returnURL=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0092867425006270] / Nature[https://www.nature.com/articles/d41586-025-01899-y]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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