
かつてはユーラシア大陸に広く生息していたが、多くの地域で20世紀までに絶滅してしまったヨーロッパビーバー。ポルトガルでは500年前から姿を消している。
スペインでは再導入が行われ、20年以上にわたり個体数の回復が進んでいたのだが、その活動域が国境を越え、ついにポルトガルにやってきたのだ。
設置されたトレイルカメラ(自然動物観察カメラ)には、ポルトガルの川でせっせと木々を集め、ダムづくりに励んでいるビーバーの姿が捉えられていた。
500年ぶりの帰還、ヨーロッパビーバーがポルトガルで確認される
2025年6月12日頃、ポルトガル北部のコア渓谷付近に設置されたトレイルカメラがヨーロッパビーバーの姿をとらえた。
これは約500年ぶりにこの動物がポルトガルの自然に帰ってきたことを意味する。
この貴重な発見を伝えたのは、自然再生を進める非営利団体「リワイルディング・ポルトガル(Rewilding Portugal)」だ。同団体のチームリーダー、ペドロ・プラタ氏はこう語っている。
ずっとこの日を待ち続けてきました。ビーバーは河川や湿地の再生に欠かせない存在であり、今回の帰還は自然再生の大きな前進です(ペドロ・プラタ氏)
ポルトガルにビーバーが戻ってきた経緯
この発見の背景には、スペインで進められてきた長年の保全活動がある。
ヨーロッパビーバーはかつて乱獲と生息地の破壊により、15世紀末にポルトガルで絶滅した。
だがスペインでは20年以上前から再導入と個体数回復が続けられ、近年は国境付近の「アリベス・デル・ドゥエロ自然公園」などで生息が確認されていた。
2023年にはすでにポルトガル国境からわずか150mの地点まで到達しており、リワイルディング・ポルトガルは国内へ来てくれることを心から願っていた。
そしてついに2025年6月、かじった跡や水流の変化といった典型的なビーバーの痕跡が現れ、トレイルカメラによりその存在が公式に確認された。
ビーバーは「森の建築家」、自然環境を整備する唯一の動物
ヨーロッパビーバーはユーラシア大陸北部から中部の河川や湖沼に生息する大型のげっ歯類で、成獣は体長80~100cm、体重は20~30kgにもなる。
ビーバーは木々をかじりダムを築いて川の流れを変えることで、まわりの環境に大きな変化をもたらす。
その能力から「森の建築家」と称され、人間以外では唯一、大規模に自然環境を整備できる動物といわれている。
ビーバーの活動によって生まれるダムや湿地は、小魚、両生類、昆虫、鳥類など多くの生き物たちの新たな住処となり、生態系全体を豊かにする。
また洪水時の水路確保や水質の改善にもつながる。
プラタ氏はこう述べている。
ビーバーがもたらす生態系サービス(自然がもたらす恩恵)は、現代の技術でも再現が難しいほどの効果があります。干ばつや森林火災のリスク軽減にもつながるのです(プラタ氏)
ポルトガルにとって救世主、ビーバーの環境改善効果
近年、ポルトガルでは干ばつや森林火災が毎年深刻な被害をもたらしている。ビーバーがもたらすダムづくりが大きな希望になると期待されている。
湿地が生まれることで乾燥した土地にも水分が保たれ、湿潤な地形が天然の防火帯として機能する。
さらに、川の水がゆっくりと流れることで土壌の保水力が高まり、干ばつ対策にも効果が期待されている。
ビーバーは森だけでなく、砂漠化が進むような川でも活動の場を広げていくため、新たな生態系づくりにも貢献する。
ヨーロッパで広がるビーバーによる自然再生の取り組み
フランスやドイツ、スウェーデン、スイス、そしてイギリスでもビーバーはすでに再導入され定着しており、農地への影響といった課題もあるものの、その恩恵の方がはるかに大きいとして共存の道が選ばれている。
リワイルディング・ポルトガルも、スペインからビーバーたちがやってくることを予測し、行政機関や関係者に対して事前に情報提供と準備を呼びかけてきた。
500年の時を経て戻ってきた「森の建築家」は、ポルトガルを気に入り、ずっと住んでくれるだろうか?仲間たちも来てくれるだろうか?
ポルトガルでは今、ビーバーが安心して繁殖し、定着てきる環境づくりが求められている。
References: More than 500 years later, the Beaver is back in Portugal | Rewilding Portugal[https://rewilding-portugal.com/news/more-than-500-years-later-the-beaver-is-back-in-portugal/]
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。