脳の保護液の作用を模倣。革新的な自転車用ヘルメットが誕生


 フレームやらユニフォームやら、自転車はパーツにこだわったらキリがない。だがヘルメットはどうだろう?

 日本の道路交通法では、バイクはヘルメットの着用が義務付けられているが、自転車に関しては、13歳未満のヘルメットの着用努力義務にとどまっている。


 だが自転車の転倒事故でダメージを多く受けるのは頭部だ。現状の自転車用ヘルメットで頭部を本当に守ることができるのか?そんな疑心暗鬼もありヘルメットを着用しない人も多い。
 
 だが、ついに画期的なヘルメットが登場した。

 自転車メーカー大手のトレックが開発した衝撃吸収技術「WaveCel」は、脳の保護液の動きを模倣することで頭部を守ってくれるクールな技術だ。
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WaveCel

【従来の発泡スチロールヘルメットの機能と欠点】

 一般的なヘルメットは、頭部を守る素材に、軽量でありながら衝撃吸収性に優れた発砲スチロールを採用している。この点については、1960年代後半に登場してからほとんど変わりがない。


 自転車で転倒してしまい、頭部を硬い物にぶつけてしまったとき、発泡スチロールはゆがみ、そのエネルギーが頭蓋骨の一ヶ所に加わらないよう分散して、衝撃を和らげてくれる。

 しかし発砲スチロールは1度衝撃を吸収するともう使えなくなる。外側のシェルが割れてしまううえに、さらに内側もまた反発できなくなるためだ。

 そうなると、頭部に衝撃をそのまま伝えてしまうため、ヘルメットとして役に立たなくなる。

 また最近では、単純に衝撃のエネルギーを分散することが、脳震盪を防ぐうえでは理想的ではないこともわかってきた。

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 発泡スチロール製ヘルメットは、主にまっすぐなエネルギーを吸収する。
しかし、自転車で転んだ人は必ずしもそのように転倒するわけではない。むしろ頭部は転がるように動くだろう。

 そして一番危険なのは、こうした回転によって起きる脳震盪なのである。

 脳の中は、天然のクッションである脳脊髄液で満たされている。しかし回転が加わると脳脊髄液が偏ってしまい、保護されていない部位ができてしまう。

 このせいでデリケートな内部の神経を傷つけやすくなるのである。


【滑ることで回転の衝撃を和らげるMIPS】

 2001年、スウェーデン王立工科大学の研究者によって「MIPS(多方向衝撃保護システム)」という技術が考案された。

 ごく大雑把にいうと、MIPSは脳脊髄液の動きを模倣する。発泡スチロールのように直接的・直線的な力の衝撃を和らげるのではなく、斜めの衝撃による回転力を逃すように機能するのだ。

 MIPSは基本的にヘルメットに張る薄い裏地のようなものだ。これがヘルメットのシェルとの間に低摩擦層を作り出し、脳脊髄液のようにヘルメットが前後にスライドできるようにする。

 これによって、回転のエネルギーを吸収するのである。


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【MIPSをさらに発展させた衝撃吸収技術「WaveCel」】

 トレックの衝撃吸収技術「WaveCel」はMIPSを進化させたものだ。

 基本、WaveCelはMIPSと同じように機能する。発泡スチロールヘルメットの中に作られた低摩擦面によって自由に動き、衝撃を吸収する。

 が、ここでトレックが気づいたのは、転倒のエネルギーがある程度まで高まると、裏張りと発泡スチロールヘルメットの間の摩擦が蓄積され始めるということだ。そして、摩擦が大きくなりすぎてしまうと滑らなくなり、回転エネルギーを逃せなくなる。

 そこでWaveCellでは、ミツバチの巣のような横断面が三角形になった構造を採用し、エネルギーが蓄積し始めたら、それを吸収して、摩擦が大きくなるのを防ぐよう機能する。


 それを可能にするのがシアリングという作用だ。摩擦が増え始めたら、WaveCellのスライド動作を作り出す素材が、逆方向に動き出すのである。すると摩擦は絶対に蓄積しない。

 これはトランプのデッキを考えてもらうとわかりやすい。

 仮にカード同士ががっちりくっついてたのならば、このときデッキを指で押せば凹みができるだろう。だが、カード同士はくっついていないので、指で押せばカードは前後にスライドし、摩擦も凹みもできない。


 つまり自転車で転倒し、頭をぶつけたときのように、エネルギーの負荷が増大しても、滑りやすさを保ち、大きな衝撃から頭部を守るのである。

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【発泡スチロールの48倍の保護性能】

 だが本当の問題は、一般的なヘルメットやMIPSと比べて、どのくらい優れているのかということだ。
 
 昨年12月に専門誌『Accident Analysis and Prevention』に掲載された研究では、発砲スチロールヘルメットを基準として、WaveCelとMIPSの比較テストが行われた。

 その結果、MIPSの場合は回転加速の衝撃をよく吸収するが、直線加速の衝撃については発泡スチロールと変わらないことが明らかになった。

 一方、WaveCelはどちらも発泡スチロールよりも優れた吸収性能を発揮した(なおWaveCelとMIPSの直接的な比較は行われていない)。

 トレックの社内テストによれば、自転車事故による脳震盪保護性能は、一般的な発泡スチロールよりも48倍高いという。

 また外部のヘルメット評価団体であるバージニア・テック・ヘルメット・レーティングスのテストでは最高評価の5つ星を獲得している。

 WaveCelは3/20より日本でも発売となった。

References:trekbikes / WaveCel/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:脳の保護液の作用を模倣。革新的な自転車用ヘルメットが誕生 http://karapaia.com/archives/52272359.html