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あなたは現実の性質について疑問に思ったことがあるだろうか?
最新の研究では、現実とはじつはたった1つの絶対的なものではなく、人によって別の現実が存在するという衝撃の結果が確認されてしまった。
少なくとも量子レベルでは・・・
『arXiv』に投稿された研究では、2人の人間が同じ光子を目にしながら、それについて異なる結論に達し、それでいてどちらも正しい状況があるという、これまで思考実験でのみ知られていた奇怪な事実が本当だったと述べている。
【ウィグナーの友人のパラドックス】
研究論文は冒頭でこう説明してる。
「2人の観察者は本質的に異なる現実を体験しうるという、ユージン・ウィグナーの有名な思考実験で劇的なまでに浮き彫りにされているように、量子理論では、観察の客観性はそれほど明白なものではない。」
「ウィグナーの友人」と呼ばれる思考実験は、「シュレーディンガーの猫」のいわば別バージョンだ。
シュレーディンガーの猫は、アルファ波が発生するとガイガーカウンターがそれを検出し、毒ガスが放出される箱の中に猫を入れるというもの。
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このとき原子崩壊によってアルファが発生する確率を50パーセントとすると、箱の中の猫は生きている状態と死んでいる状態が半々の確率で、重なり合って存在するということになってしまう。
ウィグナーの友人では、この猫がウィーグナーの友人に置き換えられている。
その友人は、研究室で光子のスピンの向きが縦方向か横方向のどちらであるか測定している。やがて友人は計測を終え、結果を知らせようと自宅にいたウィグナーに電話をかけ、「結果はね……」と切り出した。
この瞬間、計測を終えた友人にとってスピンの向きは確定している。しかし、まだ結果を聞いていないウィグナーには、縦スピンの量子と横スピンの光子が重ね合わさった状態で存在している。
つまり、同じ光子であっても、確定した状態と重ね合わさった状態が同時に存在するという矛盾が生じてしまうのである。
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【思考実験を実際に実験することが可能に】
このウィグナーの友人はあくまで思考実験であり、これまでそれが正しいのかどうか実際の実験で確かめることはできなかった。
しかし、最近の機器の進歩によって、これを実際に実験することが可能になったのである。
その方法は、昨年、オーストリア、ウィーン大学の研究チームが考案したもので、実験室を2つに増やし、実験者2人と友人2人が登場する。
このウィグナーの友人の拡張版と呼ばれる実験では、実験者1の友人1が光子のスピンを計測し、その結果を記録する。それから実験者1は干渉計測を行い、光子が重ね合わせの状態にあるかどうかを調べる。
さらに実験者2と友人2も別の場所で同じ発生器から生じた光子を同様に計測する。
異なる現実が存在するのであれば、実験者1では縦スピン、実験者2では横スピンという結果が生じうるのである。
今年、英ヘリオット・ワット大学の研究チームがこれを実際に行ってみた。すると確かに2つの現実が存在することが確認されてしまった。
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【誰もが同意できる現実は存在しない】
この結果は、現実の性質について、我々は考えを改めなければいけないのではという疑問を浮かび上がらせる。
観察者は根本的な現実の計測結果を一致させられるという考えは、いくつかの前提に立脚している。
その最たるものが、普遍的な事実が存在し、観察者は誰もがそれについて同意できるというものだ。
さらに、観察者は自分が観察したいものを自由に観察できるという前提や、観察者が選んだ選択はほかの観察者の選択に影響しないという前提もある――物理学でこれを「局所性」という。
もし誰もが同意できる客観的な現実というものがあるのなら、これらの前提はすべて維持される。
だが今回の結果は、客観的な現実などないということを示している。つまり誰もが同意できる現実などなく、我々には選択の自由などない――局所性は誤りであるということだ。
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むろん、現実の従来の見方を手放したくない者たち用の別の解釈もある。
それは実験では見落とされていた穴があるというものだ。事実、物理学者は、何年も似たような実験を繰り返して、その穴を閉じようとしてきたのだ。
そうだとしても、この事実が科学者にとって重要な意味を持っていることに変わりはない。
References:A quantum experiment suggests there’s no such thing as objective reality - MIT Technology Review/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:現実はたった1つの絶対的なものではない?量子レベルでは、人によって別の現実が存在するという結論(英研究) http://karapaia.com/archives/52272472.html
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