
音が色をともなって聞こえたり、文字に色を感じたり、言葉に味を感じたり、色が音楽を奏でているように見えてり――。
ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも同時に生じさせる知覚現象「共感覚(シナスタジア)」。
ごく一部の芸術家が持つ感覚であり、共感覚はある種の特殊能力のようなものに思われていた。
だが、新たな研究によると、それは案外、誰にでも備わった能力なのかもしれない。
【寝る前に物音と共に光を感じる人は意外と多い】
この研究を行ったミシガン大学のデビッド・ブラング氏は、ある晩不思議な経験をした。眠ろうと部屋の電気を消して目を閉じていると、不意に家が軋む音がした。すると、ぱっと光を感じたのである。
気になって学生たちに聞いてみたところ、夜寝ようとしているときに同様の経験があると答えた学生は驚くほど多かった。まさに音と色の共感覚にも似た現象である。
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【音声と光の実験】
彼が今回おこなった実験は、このときの体験を再現しようと試みたもので、次のような内容だった。
大学生21人に暗い部屋に座ってじっと目を閉じてもらう。そして、5分が経過した時点でスピーカーからアルファベットを読み上げる録音音声を流す。
音声はアルファベットの前に「曲がった」や「対照的」といった形容詞もつけており、学生はアルファベットがその形容詞に当てはまるものであるかどうか回答する。
何文字か終えると、ビーッと音が鳴る。
そのとき、何か見えればボタンを押してもらうのだ。
すると驚いたことに、学生の半数までが、見えるはずのない光のパターンを目にしていた。さらに実験をおこなうと、ビープ音が大きく、またアルファベットを想像した直後であるほど光を見やすいことも明らかになった。
これは参加者からある種の潜在的共感覚が引き出されたということになる。
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【感覚刺激を処理する脳の領域は連結されている】
しかし、このこと自体はそれほど意外ではないと研究者は言う。音や色といった各種の感覚刺激を処理する脳の領域が、たがいに連結されているからだ。
このことからは、たとえば会話について理解を深めることができる。
じつは普段私たちが話を聞くとき、相手の口の動きを目にして、話されている言葉の手がかりにしているのだ。
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こうした視覚と聴覚のつながりは、普通なら気がつかないような刺激しか作り出さないが、きちんと聴覚ニューロンの働きを促しており、それでいて実際に起きていない感覚を生じさせるようなことはない。
ところが、今回の実験では、暗い部屋で視覚的入力を弱めつつ、アルファベットを思い浮かべさせることで視覚野を刺激し、同時に大きな音で聴覚・視覚経路を活性化せるというトリックが仕掛けられた。
すると半数の学生に共感覚らしきものが現れたのである。
・実験中に見えた光のパターン
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(Credit: Nair and Brang/Consciousness and Cognition)
【共感覚は誰にでも備わった潜在能力かもしれない】
言い換えれば、私たちは潜在的な共感覚の持ち主かもしれないということだ。
そして、普段から共感覚を体験している人は、ただ各種感覚のつながりが強く、それが発揮されやすいだけなのかもしれない。
なにしろ、色から文字を連想させるよう訓練できることを証明した研究があったり、失明したことで共感覚が芽生えた事例があるくらいだ。
さらにはLSDのような薬物が、共感覚を引き起こすことも以前から知られている。
今夜、眠りにつく前に、少しだけ意識を集中して物音に耳を傾けてみよう。ひょっとしたら素晴らしい閃きの光が見えるかもしれない。
もちろんどうやったって共感覚が得られないという人もいるだろう。それはそれでいいじゃないか。まだ別の能力を隠し持っているかもしれないし。
この研究は『Consciousness and Cognition』に掲載された。
References:digest.bps/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:音から色を感じることができる「共感覚(シナスタジア)」は誰もが持っている能力なのかもしれない(米研究) http://karapaia.com/archives/52273455.html
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