
ええ、中世に?と思うかもしれないが、モンスターはこの奇妙な時代のポップカルチャーの中心だったようだ。
この時代、頭がなく腹に顔のあるブレムミュアエとか、毛布のように異様に大きな耳をもつパノッティなど、奇天烈なモンスターが多数生み出された。
ユニコーンのように、今日でもなじみのある幻想動物につながるものもあり、現代のアートやファッションに取り入れられる場合もある。
こうした中世のモンスターたちは、現代のわたしたちの文化的規範や行動を映し出しているともいえる。一度見たら忘れられないようなこうした魅惑的な動物たちは、わたしたちの心の奥深くにある偏見、恐怖、希望を表わしているものなのかもしれない。
【目、鼻、口が胴体にあるブレムミュアエ】
歴史家ジャック・ハートネルの2018年の著作『Medieval Bodies: Life, Death and Art in the Middle Ages (Wellcome Collection)』によると、目、鼻、口が胴体にあるブレムミュアエは、古代ローマ時代、アフリカ北東部に住んでいたと考えられているという。
西洋の人たちが知らなかった人種を具現化したもので、未踏の地にいるワイルドな顔として集約された。
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A 16th century drawing of a blemmyae
古い歴史書には、皇帝ディオクレティアヌスが、ブレムミュアエの襲撃からローマ帝国を守るために傭兵を募ったとある。時代が進むにつれ、このよそ者モンスターは西洋目線で脚色されていった。
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16th century / source
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16th century / source
「歴史を通してみると」ハートネルは語る。「神話的民俗学にどんどん尾ひれがついている。先天性欠損症のある人たちが、モンスター視された可能性はなきにしもあらずだろう。つまり、片足をを引きずっているとか、指が一本多いとか、一般の人たちと少し体つきが違って生まれた"スペシャル"の人たちが、"特別"だと見なされたということだ。
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Headless “blemmyae” men encounter soldiers
ブレムミュアエは、身長2.4メートルにもなると言われていた。
【中世の人々が描いたモンスターたち】
12世紀には彼らはヨーロッパ以外の地で、ほかのモンスターらしき生き物と共に暮らし、人間を食べていると噂された。インドの犬の頭をもつキノファリなども同類だ。
犬の頭をもつキノファリ
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また、エチオピアにいたと言われるモノポッドは、灼熱の砂漠を一本足で飛び跳ねながら彷徨い、寝転がってその巨大な足をパラソル代わりにしていたという。
モノポッド
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【異質なものを差別する人間特有の文化】
こうしたモンスターたちは、想像や無知の産物だが、それでも長い間ずっと信じられてきたのは、人間が他者を差別するのが恐ろしいほど得意な生き物だからだ。
ブレムミュアエが結局はありえない強引なこじつけの末、生まれたものだったとしても、そんなこ
とは構わなかった。
彼らはアダムとイブの大いなる引き立て役だった。異形であることを大げさに誇張された生き物は、あまり読み書きのできない大衆に向かって、キリスト教の価値を強調するのに絶好の手段として利用された。
頭部は人間にとってもっとも神聖な部位だと考えられた(だから、人間は神に近い存在としてまっすぐ立って歩き、動物は悪魔によって地面近くに四つん這いにさせられた)。ブレムミュアエのように腹に頭がある生き物は、神の寵愛を受けられないとされた。
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それは、異形を見世物とした「フリークショー」につながっただけでなく、学術的なものと世間の主流という両方のレベルで、人種差別的な人類学の考え方を生み出し、それが20世紀に入ってもずっと続いた。
歴史的に抑圧された人たちのカリカチュア(風刺)が残酷なほど誇張されているのをたどっていくと、ブレムミュアエのようなモンスターを見つけ出すことができるのだ。
【伝説のクリーチャー】
今日のわたしたちは、ユニコーン、マーメイド、グリフィン、バシリスクなどは良く知っているだろう。
これらは動物寓話集の中に出てくる生き物で、中世に広く読まれた。
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Luttrell Psalter, 14th century.
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Luttrell Psalter, 14th century.
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Luttrell Psalter, 14th century.
例えば、マンティコアは、ライオンの体に人間の顔、サソリの毒針をもつ姿をしていて、声はフルートを奏でるように甘く、人々を誘惑して死に至らしめる生き物で、官能の誘惑に耐えるための教訓を表わしているという。
マンティコア
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クロコッタはアフリカやインドの神話に出てくる、犬とオオカミとライオンをかけあわせた生き物。
ボナコンはアジアの雄羊か雄牛に似た動物だが、異常に力が強く、後ろに延びた角をもつ。エチオピアのアナブラは、蹄をもつゾウの姿をしている。
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【モンスターは本のいたずら書きとして広まっていった可能性】
中世には王や高官の邸宅に、さまざまな異国の動物たちが持ち込まれたため、その姿の描写はまったくの嘘というわけでもない。
こうした昔のモンスターたちが広まるのに、写本などの余白に描かれたいたずら書きのような絵が一役かった可能性がある。
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かたつむり猫や、くちばしのある牡蠣、トランペットの鼻をした生き物など、それはそれは奇抜な生物が、写本や聖書の余白などに残されている。
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テキストの重要な箇所に注目させるために描かれたものもあれば、かなり稚拙なものもある。写本の文字の間にはさまれて、ヨーダそっくりの生き物がさりげなく現われることもある。
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【現代に引き継がれるモンスター】
現代でも、こうしたモンスターはおもちゃ屋の棚やゲーム・オブ・スローン、ハロウィーン映画、グッチのファッションショーのステージでも見ることができる。
モンスターたちは、現代アートの中でも使われている。
へんてこな動物たちの奇抜さ、幻想性は現代を生きる我々の心を引き付けるのだ。
なぜ、わたしたちはこうした昔の不気味な生き物に繰り返し回帰していくのか。ブレムミュアエなど一部の人間のモンスターたちは、差別の種を宿しているものの、多くはわたしたちのイマジネーションを開花させた。
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モンスターは別世界の生き物だが、古い書物や、科学的、宗教的な論文の中にその起源をたどることができる。
中世芸術は絶えず動いていて、常に利用されている。まさに、現代においても生きているのだ。
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References:The Unexpected Relevance of Medieval Monsters/ written by konohazuku / edited by parumo
記事全文はこちら:ゆるかわ?ゆるこわ?中世で流行っていた怪物(モンスター)たちの姿 http://karapaia.com/archives/52273539.html
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