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日本には「同じ釜の飯を食う」ということわざがある。生活を共にしたり、苦楽を分かち合った親しい間柄を示す言葉だが、最新の研究結果によると、同じ皿の料理を分け合うことで親近感が深まることが実際にあるようだ。
家族の間では、1つの皿に盛られた料理をいくつか並べ、みんなで分け合いながら食べる慣習があるが、この家族的食事スタイルこそが、ビジネスの交渉時に非常に役立つという。
【1人1皿よりみんなで1皿で交渉結果に大きな変化】
アメリカのシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス(経営大学院)のアイアレット・フィシュバック教授とコーネル大学のケイトリン・ウーレイさんは、見知らぬ人たちを互いにペアにして、食事の後に賃上げ交渉をしてもらうという実験を行った。
実験では、被験者に管理役と労働者役に分かれてもらい、1ラウンドを1日と仮定して22ラウンド以内に労働組合が許容する新しい賃金の契約をし、費用のかかるストライキを終わらせるというシナリオを設定した。
この設定を2つのグループに分け、グループAにはチップスとサルサを分け合う1つの皿を、グループBには個々にチップスとサルサの皿を与え、交渉にどのような違いが出るかを見比べた。
実験3ラウンド目からは、高額な組合ストライキが起こることを仮定し、双方のグループは、迅速に契約合意に向けての交渉を頑張った様子。
しかし、チップスとサルサの皿を分け合ったグループAは、平均9ラウンドで契約に達したが、個々に食事をしたグループBは契約までに13ラウンドもかかってしまうという結果に終わった。
更に、交渉には費用がかかることも仮定していたため、グループBは、グループAよりも余分な150万ドル(約1億6,500万円)もの損失を会社にもたらしたことにもなった。
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【食事を分け合うことは、問題に取り組む能力を高める】
実験の結果、1つの皿から料理を分け合う家族スタイルの食事をしながらビジネスミーティングをすると、相手との間に良いコラボレーションが生まれ、素早い取引を導く可能性があることが明らかになった。
料理を分け合う行為によって、自分の食事だけでなく、他の人はどんな料理を好むのか、またどれだけの量を食べるのかというニーズを考慮しなければならない。
一見、分け合う料理の種類や量など、ビジネスの交渉事と比べて重要ではなさそうだが、「交渉期間の長さと会社の収益に大きな影響を及ぼす可能性がある」とフィッシュバック教授は言う。
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アメリカのビジネスマンは、時々ビジネス会食のために時間を浪費しなければならないことに不満を口にします。既に仕事に時間を費やしているため、それは余分なことのように感じるからです。ですがリサーチでは、他の人と一緒に食事をすれば、問題に取り組む能力を高めることが明らかになりました(フィッシュバック教授)
更に2人の研究者を驚かせたのは、食事を分け合ったグループは1人1人に対する感情を考えることなどなく、食事をどの程度うまく分け合ったかということに重点を置き、それがより協力的な態度を促したことだった。
自動車購入のように1回限りの取引となると話は別だが、継続的に相手と交渉しなければならない場合には、食事を分け合うという戦略を使って、相手を理解し、相手の考え方を促すことは実に有益であることが、この実験からもわかる。
友人同士でも同じゲームを行ったが、同じ結果が出たようだ。
通常、人々が同じ食べ物を食べている時、親近感のシグナルが発せられます。同じ食べ物を1つの皿から分け合うことで、食事中に相手とのコラボレーションを感じるのです。更に食事中に交渉となると、その気持ちが大きく反映するのでしょう。(フィッシュバック教授)
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【ただし食事を分け合うことが全てベストな交渉結果に繋がるとは限らない】
ただし、全ての食事がこの実験のように、有益な効果をもたらすとは限らない。
例えば、ビュッフェスタイルの料理であれば、頻繁に量が追加されるし、シェアする品そのものも豊富だ。そのために、自分の欲しい量の料理を口にできるし、他人のお腹の空き具合を考える必要もない。ケーキなど、明確な分量が1切れごとに配分されている場合も同じだ。
また、シェアする量が少量過ぎても、全ての人々を満足できずに競争力を高めてしまうことになり、逆効果となってしまう場合もあるようだ。
つまりは「少なすぎず、多過ぎず、ちょうどいい量」が、ベストな交渉結果に繋がるのだ。
実験結果と併せて、フィッシュバック教授は次のように語っている。
分け合う食事の種類は何なのか、どれだけの人数がこれを食べるのか、また他の人は自分の動きにどのように反応するのかを確認する必要があります。協力に必要な量でないと、効果が得られないからです。References:news.uchicago/ written by Scarlet / edited by parumo
近年は、様々な技術によって遠隔で会議を行うこともできます。ですが、食事を共にすることは価値があることなのです。そしてビジネス以外でも、もちろん同じことが言えます。
基本的に、あなたが1人で食事をする度、あなたは誰かと繋がる機会を逃したことになります。食事をシェアすることは、社会的絆を生み出す機会を十分活用させるということなのです。
記事全文はこちら:同じ皿の飯を食べると話し合いがスムーズに進み交渉が成立しやすくなる(米研究) http://karapaia.com/archives/52274278.html
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