何度目の正直?またしてもヴォイニッチ手稿の解読に成功したとの報告。暗号ではなく古いロマンス祖語説(英研究)

Public Domain
 これで何度目となるだろう?

 15世紀に書かれたとされる謎多き本「ヴォイニッチ手稿」をめぐっては、暗号説、人工言語説、セム語族・コーカサス諸語説、ラテン語系略語説、はてはエイリアンからのメッセージ説など、さまざまな学説が提唱されてきた。

 そして、またもや新たに手稿の解読に成功したという報告があった。
解読を行ったイギリスの言語学者によると、ヴォイニッチ手稿は暗号などではなく、現存する唯一の「ロマンス祖語」なのだという。

 現時点で、専門家はこの仮説の正しさを確信しているわけではないが、仮に正しいのだとすれば、ただの謎の解明にとどまらず、言語学の分野においても重要な発見となる。
【解読不能な謎の古文書「ヴォイニッチ手稿」】

 ヴォイニッチ手稿とは、1404~1438年の中世に書かれたとされる古文書で、謎めいた解読不能な言語で綴られている。

 1912年にイタリアで発見された。その名はイタリアの図書館からこの本を買い受けたポーランド系アメリカ人の古書収集家ウィルフリッド・M・ヴォイニッチにちなむ。

 手稿の中は見たこともない不思議な手書きの文字が並んでおり、そこに植物・裸婦・奇妙な物体・十二宮のシンボルといったやはり不可思議なイラストが添えられている。


[画像を見る]
Beinecke Rare Book & Manuscript Library, Yale University
 内容は現在にいたるまで完全には解読されていないが、多少は信頼できそうな断片的な解読の結果から、薬草や占星術、あるいは女性の健康に関するものではと推測されている。

 また著者についても同様に諸説あり、「驚嘆的博士」と呼ばれた13世紀の哲学者ロジャー・ベーコン、16世紀の錬金術師ジョン・ディー、はたまたヴォイニッチ自身によるでっち上げなどが提唱されている。

[画像を見る]
古書収集家ウィルフリッド・M・ヴォイニッチ氏 Wikimedia Commons

【あらたに提唱された現存する唯一のロマンス祖語説】

 今回『Romance Studies』に掲載された研究論文で、その解読に成功したと主張するのはイングランド、ブリストル大学の言語学者ジェラルド・チェシャー氏だ。

 同氏によれば、ヴォイニッチ手稿は暗号などではなく、数世紀前のヨーロッパで話されていた古い言語で書かれているのだという。

 その言葉はなんと、フランス語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語といった現在用いられている言語の基礎となった、「ロマンス祖語」と呼ばれるもの。

 彼が注目したのは、アルファベットに見慣れぬ記号とよく知られた記号が組み合わされている点だ。
句読点はなく、いくつかの文字に句読点やアクセントを示す記号が含まれていた。

 文字はどれも小文字であり、二重子音がないという特徴もあった。一方、二重母音や三重母音はおろか、四重母音や略語としての五重母音すらあった。

 こうした特徴がロマンス祖語のそれと一致しているのだという。

[画像を見る]
Public Domain
 ロマンス祖語は絶滅した言語で、今日ではほとんど残っていない。というのも、それは主に話し言葉であり、当時書き言葉として一番重要だったラテン語のようには文字の形で残されなかったからだ。


 したがってこの説が正しければ、ヴォイニッチ手稿はロマンス祖語を現代に伝えるものとして、言語学の分野でも貴重な資料ということになる。

【修道女がアラゴンの王妃のための編集した資料】

 ヴォイニッチ手稿の文字が判明してしまえば、その解読にはほんの数週間しかかからなかったという。

 チェシャー氏によると、浴槽で出産の苦しみに耐える女性のイラストに添えられた文章は、「うるさい」「滑りやすい」「行儀がいい」といった形容詞が並んでいる。

[画像を見る]
public domain
 また別のところにある火山のイラストには、火山の噴火で出現した島について説明する文が添えられている。

 チェシャー氏によれば、ヴォイニッチ手稿の著者は聖ドミニコ会の修道女であり、イングランド王妃キャサリン・オブ・アラゴンの大叔母にあたるアラゴン(現在のスペイン、アラゴン州に存在した王国)の王妃マリア・デ・カスティーリャ(1401~1458年)のための資料として編纂されたものであるようだ。

【奇書「ヴォイニッチ手稿」のミステリーは決着したのか?】

 ご存知のように、これまでにもヴォイニッチ手稿の解読に成功したという主張する者は数多くいた。


 専門家は、今回もそうしたものの1つに過ぎないとして、謎の完全解明にいたったかどうかについて慎重な姿勢を見せている。

 たとえばアメリカ中世学会のファギン・デイビス氏は、「残念ですが、ロマンス祖語説はあり得ません」とツイート。

 チェシャー氏の学説は、堂々めぐりの議論を行なった希望的観測に基づく自己満足でしかない、と一蹴している。

 しかも、こうした批判を受けて、ブリストル大学側からもチェシャー氏の研究から距離を置く旨の声明が出されてしまった。

かかる懸念を深刻に受け止めています。研究については、今後関係者や掲載誌とさらに検証と議論を重ねてもらうべく、大学のウェブサイトからこの研究に関する話を削除することとなりました。
ブリストル大学声明より)

 だが、もし本当にチェシャー氏の学説が正しかったのだとすれば、それはかのアラン・チューリングをはじめとする当代最高の暗号解読者ですら挫折した偉業を成し遂げたことになる。

 さらなる研究結果を待ちたいところだ。

References:mentalfloss / arstechnicaなど/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:何度目の正直?またしてもヴォイニッチ手稿の解読に成功したとの報告。暗号ではなく古いロマンス祖語説(英研究) http://karapaia.com/archives/52274463.html