
世界では8億4400万人もの人々がきれいな水を利用することができない。安価かつ実用的に海水から塩を除去する方法があれば、そんな人たちを大勢助けることができる。
そのための夢のようなデバイスが開発されたそうだ。
新発明されたそのデバイスは、超親水性のフィルターペーパーと光を吸収するカーボンナノチューブの層を組み合わせた小さなディスクを用いている。
これを作動させるには日光があればよく、それでいて海水からほぼ100パーセントの塩を除去することができる驚きの除去力が自慢だ。
見た目は毒々しいキノコっぽいが、出来上がった水はちゃんと美味しく飲むことができるのだ。
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Supplementary Video 6
【原理は昔ながらの蒸留】
一見ハイテクの塊のようなデバイスにも思えるが、その仕組みは昔からあるもの。熱で水を蒸発させ、それを集めて再び水に戻すことで、溶けていた不純物を取り除くのだ――要は蒸留である。
新デバイスでは、太陽のエネルギーで水を蒸発させる。そのために日光を熱に効率よく転換させられる「太陽熱転換素材」が使われている。
だが、水分を蒸発させる過程で太陽熱転換素材が塩の結晶でおおわれてしまえば、エネルギーを熱に転換できなくなってしまう。
そこで、水が蒸発する場所と塩が結晶化する場所を遠ざけ、また結晶化した塩が重力で落ちるよう設計に工夫をこらした。これによって600時間を超える連続使用が可能になった。
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Monash University
【安く、効率的で、廃液もなし】
オーストラリア、モナシュ大学の化学エンジニア、ジャン・シーワン氏によれば、安く、電気もいらず、効率的で、しかも廃液の類を出すことなしに海水から塩を除去できるというのだから大したものだ。
「大勢の人々に清潔で安全な水を届ける、エネルギー受動的な方法を開発する研究の足がかりになればいいと思います。廃棄物の環境インパクトや廃棄物から資源を回収する方法にも光が当たることでしょう。」
実験では、このデバイスの日光吸収効率は、どのスペクトルであっても94パーセント以上に達するという結果が得られている。そのために、日光の状態にかかわらず有効に機能してくれるはずだ。
また現時点では、1平方メートルの水面に対して使えば、1日あたり6~8リットルの真水を作り出すことができる。この点については、まだまだ改善の余地があるらしい。
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Image by Dimitris Vetsikas from Pixabay
【貴重な水資源を世界の人々に】
水が豊富な日本にいるとなかなか実感できないかもしれないが、安全な水の確保は21世紀の世界が直面している大きな課題だ。
水の惑星と言われる地球であるが、その97.5パーセントは海水で、淡水は2.5パーセントしかない。しかも淡水のほとんどは南極や北極の氷あるいは地下水として存在する。
このために、すぐに利用できる水は全体のわずか0.01パーセントしか存在せず、しかも人口の増加や温暖化のために、そうした水はさらに貴重なものとなっている。
環境や資源を傷つけることなく、海水を利用可能な水に変える技術が求められているのはこうしたわけだ。
長く続いた梅雨空でうんざりという人もたくさんいるだろうが、じつはそれも恵みだということを心のどこかに留めておくといいかもだ。
この研究は『Energy & Environmental Science』に掲載された。
References:Water solutions without a grain of salt - Monash University/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:太陽の光で海水からほぼ100パーセント塩分を除去できる新型デバイスが開発される(オーストラリア研究) http://karapaia.com/archives/52277484.html
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