
チェルノブイリ原子力発電所の原子炉が1986年4月に爆発し、大惨事を引き起こしてから33年。
事故から長い年月が経っても、原子炉の半径約30kmは立ち入り禁止区域に指定されてきたが、現在その区域はアメリカのテレビ番組がきっかけとなって、多くの観光客が訪れるようになった。
そして、今回イギリスの研究者らが立ち入り禁止区域で栽培された小麦と域内の水を原料とするウォッカ「アトミック(Atomik)」を製造したそうだ。
「飲んでも人体に害はない」というチェルノブイリ産ウォッカは、近々観光客を対象に更に生産される予定であり、その利益の75%は被曝地域に還元されることになっているという。
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Producen vodka “atomico” desde Chernobil | Noticias Telemundo
【チェルノブイリ産ウォッカ「アトミック」が製造】
ウクライナ放射能汚染エリア国家管理局は公式サイトは、チェルノブイリ原発事故の立ち入り禁止区域で栽培された穀物と域内の水を使って、イギリスのポーツマス大学の研究者らがウォッカを製造したことを発表した。
研究チームは、英環境研究委員会が資金援助をするウクライナのプロジェクトに参加し、事故後立ち入り禁止区域となり放棄された土地の一部で農作物栽培を行った場合、放射線影響がどの程度のものなのか、また同域内の農地で育った穀物が安全に使用できるのかという調査を3年がかりで行ってきた。
チェルノブイリの調査に数十年携わっているポーツマス大学のジム・スミス教授らは、立ち入り禁止区域内の農場で栽培された穀物を分析。すると、微量の放射能元素が含まれていることが判明した。
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原発事故から30年以上経過しても、ウクライナの定める極めて厳しい基準値をわずかに上回ったレベルの放射能汚染が検出されたことで、これらの穀物を食用にはできないと判断した研究チームは、代わりにウォッカを作ることを思い付いた。
【「飲んでも人体に害はない」と研究者ら主張】
研究者らによると、ウォッカの製造に使用された軽度汚染のライ麦は、蒸留プロセスにより徹底的に不純物が取り除かれたとのこと。
その後、放射線レベルを検査したところ、正常なレベルの範囲内に収まっていたという。
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また、アルコール度数の調整には、市内の帯水層に含まれる鉱水を使用。この水は、原子炉から10km離れた地点に位置するもので放射線汚染を免れており、水の化学成分はフランスのシャンパン産地の地下水に似ているそうだ。
スミス教授は、「蒸留によって放射能元素はほぼ全てが取り除かれたため、市場で販売されている他のウォッカとなんら変わりはない。
【ウォッカの利益の75%は被曝地域に還元】
このチェルノブイリ産ウォッカ「アトミック(Atomik)」の販売利益の75%は、事故で被曝した地域に還元されることになっている。
スミス教授はプロジェクトが成功の一途を辿っていることに喜びを露わにし、次のように語った。
チェルノブイリのメインの立ち入り禁止区域は、現在では野生動物の保護区となっているため(関連記事)、農業に広く使用されるべきではないと考えました。
ですが、何千という被曝した人々が住んでいる他の地域も、未だ農業は禁じられています。「アトミック」の販売収入は、その人々を助けるのに役立ちます。
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事故から33年経過した現在、多くの放棄された地域の農地で作物を安全に栽培できることは、可能になりつつあるのです。
私たちは、メインの立ち入り禁止区域以外の地域の経済発展を支援するために、価値の高い製品を作ることを目指しています。
【観光客を対象に「アトミック」を販売予定】
このプロジェクトを支援しているのは、研究者たちだけではない。ウクライナ当局も今回のウォッカ製造が成功したことを喜んでおり、当局機関のオレグ・ナスビット副長はこのように話している。
「アトミック」は、ハイエンド(最高級)のウォッカというより、高品質の密造酒といったほうが適切でしょう。ですが、ウクライナ本来の蒸留方法を用いて製造されたことを高く評価しています。
最も重要なことは、人の命を危険に晒すことなく、その地域の生活を正常に戻すことなのです。
今回は試しに1本製造されただけだが、研究チームは既に新会社を立ち上げており、年内までには500本を生産する予定であることを明かしている。なお、価格については現段階では公表されていない。
※追記(8月12日)本文を一部修正して再送します。
References:Oddity Centralなど / written by Scarlet / edited by parumo
記事全文はこちら:チェルノブイリの立ち入り禁止区域内で栽培された穀物を使ったウォッカ「アトミック」が誕生。近々販売予定 http://karapaia.com/archives/52278073.html