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英国人作家J.K.ローリングによる『ハリー・ポッターシリーズ』は、1990年代のイギリスを舞台に魔法使いの少年と仲間たちが繰り広げる冒険を描いたファンタジー小説で、映画化されたことからも世界的に有名になった。
全7巻の原作小説は世界各地の言語に翻訳され、計5億冊以上を売り上げた「史上最も売れたシリーズ作品」としても知られている。
しかし、子供だけでなく大人にも人気のこの児童文学は、出版されて以来オカルトや神秘主義のテーマが特定の宗教の教えに反するとして、国際的な物議を醸し、英米だけでなくアジアでも学校の図書館からハリポタシリーズが撤去される事態が起こっている。
そして今回、アメリカのテネシー州にあるカトリック系の学校でも、「シリーズの中に出てくる呪文は本物で悪霊を呼び起こす力がある」として、全7巻が校内図書館から撤去された。
【「本の中の魔法や呪文は本物」と神父】
テネシー州ナッシュビルにあるローマカトリック系の幼・小・中一貫の私立校「セント・エドワード・カトリックスクール」は、同校の運営に携わるダン・リーヒル神父の「ハリポタシリーズの中には、悪霊を呼び起こすことができる本物の呪いや呪文がある」という判断により、シリーズ7巻を校内図書館から撤去した。
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リーヒル神父は、アメリカやイタリアのエクソシストらと審議した結果、図書館からの撤去を確定したとして、8月28日に教職員宛てに送ったメールの中で、次のように述べた。
ハリー・ポッターシリーズには、多くの呪文や魔法の言葉が登場し、善と悪の両方が架空の魔法として描かれているが、これは真実ではない。これらの魔法は本物で、人間が口にすると悪霊を呼び起こす力がある。よって、シリーズを読む読者に害が被る可能性が十分にある。
また本書は、預言的行為を称賛し、死者を呼び起こしたり宗教の美徳に反する呪文を唱えたりすることを推奨しており、多くの読者はそれが問題ないもので精神的に害がないと信じさせられてしまう。
これは、我々の信仰に対する潜在的脅威であり、この本がナッシュビルの学校や教会によって推奨されることはない。
当校は、カトリックの教えを守り、それに従って道徳的価値を生徒たちに教えるため、健全な教義の基準を原則としている。
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【「神父には決定権がある」と教育長】
教職員から連絡を受けた生徒らの両親は、この事態に困惑を示し、一部では物議を醸した。
しかし、ナッシュビル内でカトリック司教管区の学校を取りまとめるレベッカ・ハメル教育長は、「神父にはそのような決定権を行う正当な権限がある」と話している。
今回の措置が、望ましくない注目を浴びたことは遺憾です。ハリー・ポッターシリーズの撤去は、今秋の新年度にあわせて新しく開設される図書館のプロジェクトの一環として行ったまでです。新設の図書館には、神父の指摘を受け、シリーズが置かれることはありません。
ただこの書物自体については、ローマカトリック教会は公式な見解は発表しておりません。そのため、同書の取り扱いについては、各カトリック系学校にその決定権が委ねられています。今回のエドワード校での書籍撤去の決定は、学校の自治区の範囲内で行われたことです。ですが、教区内全ての学校図書館からシリーズを撤去したわけではありません。
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【過去にも問題視されていたハリポタシリーズ】
ハリポタシリーズを巡っては、1997年に小説が出版されて以来、国際的な物議を醸している。
今回に限らず、アメリカやイギリスの学校では、シリーズが悪魔崇拝や黒魔術を奨励しているなどの理由で何度も禁止になっており、アラブ首長国連邦やサウジアラビア、フィリピンやマレーシアでも小説のテーマがイスラム教やキリスト教の教えに反しているとして、学校の図書館からハリポタシリーズが撤去された。
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また、米図書館協会(ALA)の調査によると、2000年~2009年の間で「禁止もしくは問題あるとされた書籍」リストで、ハリー・ポッターシリーズは常に上位にランクインしているという事実も明らかになっている。
その理由は、「悪魔主義、オカルト、反家族的、暴力、宗教的観点」といったものだが、そもそもこのシリーズはファンタジー小説として出版されていることから、SNS上では困惑や驚きを露わにする人も多く、今回の件でも米メディア『CBS News』のツイートには次のような声が寄せられた。
Nashville school bans "Harry Potter" series, claim books "risk conjuring evil spirits" https://t.co/tMaIgptVPj pic.twitter.com/1B8WRtQoSL
— CBS News (@CBSNews) 2 September 2019
・ナッシュビル、19世紀へようこそって感じ?
・誰か、彼らに“フィクション”の意味を思い出させてあげて。
・邪悪や嫌悪を問題とするのなら、聖書こそ禁じるべきではないのか?
・「親愛なるダン・リーヒル神父様。魔法は実在しません。」
・つまり、学校側は「フィクション」と「ノンフィクション」の違いがわかるような知的な生徒たちはいないって思ってるんだよね??
→・いや、それよりも学校側は生徒たちが「現実」と「架空」の区別がわからないと思っていることが問題だよ。
・ハリポタシリーズはダメだけど、銃はいいのか?なんて社会だ。
References:Tennessean.など / written by Scarlet / edited by parumo
記事全文はこちら:ハリーポッターの小説を図書館から撤去。その理由は「呪文は本物。悪霊招く恐れがあるから」(アメリカ) http://karapaia.com/archives/52282146.html