人が触っているものを自分の体で感じ取ってしまう「ミラータッチ共感覚」とは?

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 共感覚は、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる特殊な知覚現象のことだ。主に音や文字、数字から色を感じ取ったり、形に味を感じたりするという

 しかし、脳のこの変則的な交錯は、さらに驚くべき状況を作り出すこともある。


 他者が触っているのに自分自身が触っているように感じたり、他者が触られているのに、自分自身が触られたりするように感じる共感覚だ。

 これはミラータッチ共感覚と呼ばれる触覚の共感覚だ。
【共感とは別次元のミラータッチ共感覚】

 これは、他者と感情を共有する「共感」と同じようなものと思うかもしれないが、ミラータッチ共感覚の場合は、それを遥かに越えた状態をいう。

 『 journal Cortex』に掲載された論文によると、世界で100人中およそ2人の人が、ミラータッチ共感覚をもっているという。これは視覚と触覚が混ざったときに発生する。

 こうした共感覚は、個人個人が持つ知覚経験は多様であり、人によって様々で独特であるということを示しているという。


【映像を見ただけで俳優の身体的感覚を自分のもののように感じる】

 この研究の為、アメリカ・デラウェア大学の神経科学者たちは、2351人の学生を対象に調査を行った。

 被験者たちは、テーブルの上に手のひらを伏せ、あるいは上に向けて座り、俳優が手のさまざまな個所を触られる映像を見せられる。

 その後、学生たちはなにかを感じるかどうか訊かれ、感じるのなら、どの箇所に、どれくらいの強さでということを詳細に回答する。次に彼らの言っていることを確認するために反応時間のテストを行った。

 その結果、45人の学生にミラータッチ共感覚があることが判明した。彼らは映像の中の俳優と同じように感じ、手の位置が同じとき、まったく同じ箇所に刺激を感じていた。


 映画の中の登場人物が体験している、触覚や痛み、その他の肉体的刺激を、見ているだけの人が同じように感じる。これはまるで映画を見ているその人が映画の一部になっているようなものだ。

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【手のひらを上に向けると共感覚が生じやすくなる】

 ほとんどの場合、こうした感覚は、自身の手の位置に関係しているという。手のひらを上に向けている場合の方が、下に向けているときにくらべてより共感覚を感じやすいのだそうだ。

 このときの脳は、共感覚者自身の肉体をその人が見ているものになぞらえている。共感覚者の体験は、自身の体と他人の体の同一視に基づいて調整されているのだ。


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【なぜミラータッチ共感覚が起こるのか?】

 ミラータッチ共感覚者たちが、他人とは違う方法で触覚情報を処理しているのはわかっているが、そのやり方ははっきりしていない。

 一説では、他人が触られているのを見たときに活動する体性感覚分野が過剰に反応しているのではないかとも言われている。

 人間は誰でも、多かれ少なかれ"代理触覚処理"を体験している。誰かが触られているのを見ると、自分の触覚システムが同じように活動することはある。でもたいていは、それで自分が触られたとは感じない。

 だが、ミラータッチ共感覚者は、目で見た触覚が、まるで自分の体に起こったことにように感じる、過剰な代理触覚システムをもっているのかもしれない。

 
 ミラータッチ共感覚は、心地よい映像を見ると自分も心地よくなれるという点ではよさそうだが、殴られたり叩かれたりする映像も自分の身に起こったことのように感じてしまうという点では、ちょっと気の毒な気もする。

References:eurekalert / betterhelp/ written by konohazuku / edited by parumo

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