冬眠する哺乳類の遺伝的メカニズムが肥満や代謝異常の治療に役立つ可能性(米研究)

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 肥満や代謝異常で苦しむ人は世界に数百万人もいるが、冬眠をする動物たちがその治療に一役買ってくれるかもしれない。

 クマをはじめとする冬眠動物たちは、エサが豊富にある時期に脂肪を貯め込み、食べるものに乏しい厳しい冬を切り抜ける。
人間なら極端な体重の増加は不健康だが、そうした動物は春になれば健康な顔で目を覚ます。

 アメリカ・ユタ大学の研究グループが注目したのは、冬眠動物たちが見せてくれる絶妙な代謝制御を可能にする遺伝的メカニズムだ。

 同グループはかつて、ゾウが持つガンへの抵抗力やイルカの血栓防止機能など、動物たちに備わっている驚異的な生体機能を支える遺伝子を解析したことがある。

 今回の研究は、そのときの方法を応用して、冬眠動物にもそれと似たような体脂肪調節スイッチが備わっているかどうかを確かめたものだ。
【肥満に関係する遺伝子のそばに存在する非コードDNA】

 研究対象になったのは世界の異なる生息環境に生息している、ジュウサンセンジリス、トビイロホオヒゲコウモリ、ハイイロネズミキツネザル、ヒメハリテンレックという4種の冬眠動物だ。

 これらの遺伝子を解析したところ、いずれの種も独自に「並行加速領域(parallel accelerated region)」という短い非コードDNAを発達させていることが明らかになった。

 しかもそれは、人間の肥満に関係するとされる遺伝子のすぐ近くにやたらと多く存在していたのである。

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 研究チームは肥満と問題の非コードDNAとのつながりを解明するため、「プラダー・ウィリ症候群」に関連する遺伝子も解析してみることにした。

 この症候群は、15000人に1人の割合で発生する遺伝子に起因する疾患だ。生まれたばかりの頃は力が弱くうまく母乳を吸えないのだが、3歳頃になると食欲を抑えることができず、そのために患者は肥満になりやすいことで知られている。

 そのプラダー・ウィリ症候群に関係しているとされる遺伝子を調べてみたところ、ここにもまた例の並行加速領域がたくさん存在していることが明らかになった。

【冬眠動物の代謝と脂肪制御に関連する進化】

 このような結果から、冬眠動物は代謝と脂肪の制御に関係している遺伝的要素を停止する方法を進化させたのではないか、と研究チームは推測している。

 
 研究著者の1人、エリオット・フェリス氏は次のように解説する。

 「この結果が示しているのは、冬眠動物加速領域が、大勢の人々の肥満や症候群型の肥満と関係する遺伝子のそばにたくさんあるということです。人間と冬眠動物のデータを合わせることで、哺乳類のゲノムの中に備わっている肥満調整マスタースイッチの候補を見つけることができました。」

 今回の研究では代謝プロセスにのみ焦点が当てられたが、この成果を応用することで、加齢や認知症のメカニズムの解明にもつながると期待されるそうだ。

 この研究は『Cell Reorts』(11月26日付)に掲載された。

References:The genomes of hibernating mammals could help us fight obesity and metabolic disorders/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:冬眠する哺乳類の遺伝的メカニズムが肥満や代謝異常の治療に役立つ可能性(米研究) http://karapaia.com/archives/52285340.html
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