3億8500万年前、世界最古の森の化石が発見される(英米共同研究)

Stein et al., Current Biology, 2019
 地球におい茂る木は3兆本を超えると言われており、その数は天の川の星々ですら凌駕する。

 これらの木々は、大気から二酸化炭素を吸収し、土壌を侵食から守り、水を生態系の中で循環させ、無数の生命を育む、私たち人間にとってもかけがえのない存在だ。


 幹から広がる根は、いわば植物の消化管のようなもので、周囲の土から水と栄養を交換している。また文字通りいかりとして植物を固定し、地上で高く広く成長する幹や枝葉を支えている。

 しかし、それは地球に登場した最初から今のような姿をしていたわけではなく、木がどのようにして地下の配管システムを進化させてきたのか、これまでずっと謎だった。

 だが、アメリカ・ニューヨーク州カイロ郊外で発見された3億8500万年前の森の化石がその謎を解き明かしてくれるかもしれない。
【3億8500万年前のデボン紀の森】

 『Current Biology』(12月19日付)に掲載された研究によると、アメリカ・ニューヨーク州カイロ郊外で発見された世界最古の森の化石は3億8500万年前のデボン紀のもので、今のほとんどの植物がそうである種子植物が台頭した時期よりも前のものだ。

 この森に残されている根の名残は、現代の木々のものとよく似ているという。
つまり、根は相当に早い段階から進化し、今にいたるまで使い続けられてきたらしいということだ。

 根の化石は幹を中心に5.5メートルほど広まり、土の奥深くに潜っている。しっかりと頑丈で、複雑に枝分かれし、その先端からは繊細な細根が伸びている。

 研究グループの一員であるニューヨーク州立大学ビンガムトン校のウィリアム・スタイン氏曰く、その見た目は「驚くほど現代的」だという。

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World’s oldest fossil forest at Cairo, New York

【植物の世界に登場した革命的な種】

 この根は知られる限り最古の木「アーケオプテリス」のものであることが判明している。

 この木は、現代のオークやメープルのような日光を浴びるにはぴったりの平べったい緑の葉を茂らせ、高く成長しやすい太く立派な幹を持っていた。


 今回はさらに、リソースを有効に使える効率的な根が備わっていたことまでが明らかになった。これら三つの特徴を駆使して、デボン紀の終わりにかけて世界中に勢力を広めたのではないかと推測されている。

 「革命です。こうした特徴の多くはより高い代謝率のサインなのですが、それらすべてがほとんど奇跡のようにアーケオプテリスに現れたわけです」とスタイン氏は説明する。

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Stein et al., Current Biology, 2019
【カイロの森とギルボアの森】

 カイロから西に40キロの地点にあるギルボアには、これまで最古とされてきた森の化石がある。そこには現代のシダ植物に似た「エオスペルマトプテリス(Eospermatopteris)」が茂っていた。


 エオスペルマトプテリスはカイロの森にも多く見られ、かなり適応力が高かったらしいことが窺える。しかし、その根は浅く、華奢なもので、1年か、2年程度で次の世代に入れ替わっただろうと考えられている。

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エオスペルマトプテリスの根系の化石 Stein et al., Current Biology, 2019
 一方、アーケオプテリスがギルボアの森に勢力を伸ばすことはなかった。ベリー氏によれば、その理由は、深く根を張る植物にとっては少々土壌の水分が多すぎたからであるようだ。カイロの場合は定期的な乾季があったようで、そのためにアーケオプテリスは根腐れの心配なく、根を深く張り巡らせることができた。

 数十キロの距離と数百万年の隔たりがあるとはいえ、カイロとギルボアの森はかつてキャッツキル山脈をおおっていた同じ風景の一部だったのだろう、とスタイン氏は考えている。


 しかし、この地域はときおり洪水に見舞われてきた。そして特に酷いものが数億年前に発生し、カイロの森は現代の形になってしまった。

【森の登場が現代世界を創造した】

 アーケオプテリスがこのような効率的な根を進化させるにいたった理由は定かではない。だが、それがいつで、どのようなものであろうと、それまで地表をおおうだけだったちっぽけな植物からの劇的な出発を意味しているのは間違いない。

 それは地球全体の風景をも一変させるほどの出来事だった。 

 木々が大気から二酸化炭素を吸収し、やがて枯れたときにその分子を土の中に堆積させ、これがまた新しい命を育んだ。
生茂る葉は日陰を作り出し、容赦なく照りつける太陽から生き物を守った。

 根は地下奥深くへと張り巡らされ、土壌の化学成分に変化を引き起こし、炭酸を海へと移動させた。そして木々が茂ることで、土地全体が洪水や風雨に対して強くなった。

 二酸化炭素が吸収されたことで、大気は劇的に冷えて、地球は氷河期へと突入する。木々の中には絶滅した種もあった。しかし一方でまた違う種が進出し多様化した。


 「こうした森の登場は、現代世界の創造でした」とベリー氏は述べる。

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エオスペルマトプテリスの根系の化石 Stein et al., Current Biology, 2019
 また今回の発見は、温暖化が進む現状についてハッとさせられる事実を突きつけてもいる。

 世界中で森が切り倒され、太古の時代に木々が蓄えた炭素(つまり石炭)が掘り起こされている。「今起きているのは、デボン紀に起きたこととまったく逆のことです」とスタイン氏は話す。

References:smithsonianmag / sciencealert/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:3億8500万年前、世界最古の森の化石が発見される(英米共同研究) http://karapaia.com/archives/52285926.html